一般社団法人シルバーサービス振興会が主催する月例研究会、11月は厚生労働省老健局高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室長・勝又浜子氏を講師に招き、今後の認知症施策の方向性について講義を行った。
勝又氏は厚生労働省「認知症施策検討プロジェクトチーム(以下、PT)」のメンバーの1人。今年6月に発表され、これまでの認知症施策を覆す画期的な内容であると話題を呼んだ、「今後の認知症施策の方向性について」を発表した。この研究会では、PTの報告書と9月に予算概算要求とセットで発表された「認知症推進施策5カ年計画(オレンジプラン)」の内容がコンパクトに資料で示され、今後の認知症施策の考え方、施策が導き出された背景などが紹介された。
■65歳以上の約10%が認知症
前述のPTが招集された背景として勝又氏が挙げたのは、まず認知症の高齢者数の大幅な増加の問題。平成22年の「認知症高齢者の日常生活自立度II」以上の高齢者は280万人。平成24年時点の推計は305万人で、要介護認定を受けている65歳以上の9.9%が認知症という計算になる。これは平成15年発表の推計値を大きく上回る。そして今後も、認知症高齢者の人数は大幅に増えていくという推計が示されている。
勝又氏は認知症高齢者数が大幅に増えた理由について、要介護認定を受ける人が増えたこと、認知症の診断ができる医師が増えたこと、後期高齢者数が増えたことを挙げた。認知症の診断は、最近では腰椎穿刺によって診断できる状況になってきているそうで、今後はできるだけ早く血液検査でわかるように研究を進めたいという。また、年齢と認知症の関係では、年齢が5歳上がるごとに倍々と増えていくとのことだった。
■衆議院解散で認知症対策予算折衝はストップ
次に挙げたのは、精神科病院での認知症高齢者の長期入院の問題。280万人の認知症高齢者が暮らしている場所は居宅が最も多く、140万人と半数を占めている。次いで多いのは特別養護老人ホーム41万人だが、介護老人保健施設36万人を上回る38万人が医療施設にいるという。このうち、認知症の行動・心理症状の治療等を目的に精神科病院に在院している人は5.2万人。精神科病院での在院日数は長く、昨年度の厚生労働省の調査によれば、最長で2800日(7年半超)、平均で900日であるという。
この中には認知症の行動・心理症状が治療によって落ち着き、本来なら在宅復帰できる人も多数いる。しかし、老老介護、認認介護など、認知症高齢者や介護する家族を支える地域での受け入れ体制を整えないと、地域復帰はできない。こうしたことから、精神科病院での長期入院解消も大きな目的として、厚生労働省内5局横断のPTが招集されたという。PTでは、各局が持ち寄った様々な課題に対し、15、6名の有識者や現場の介護職を集めて意見を聞きながら対応を検討。とりまとめて発表したのが「今後の認知症施策の方向性について」である。
この報告書はあくまでも厚生労働省としての方針を明らかにしたもの。その後、様々な関係団体の意見を聞きながらまとめたのが、9月4日に発表された「認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)」である。そしてこれを実行するために、それまでの予算の3倍近い、60億円規模の予算概算要求も併せて行ったのだという。しかし、ご存じのとおり衆議院が解散になり、残念ながら概算要求もストップしてしまったのだが…。
――レポ(2)では、施策の目玉、「認知症初期集中支援チーム」と「身近型認知症疾患医療センター」について取り上げる。
◎厚生労働省 報告書「今後の認知症施策の方向性について」
◎「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」
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