市民福祉情報オフィス・ハスカップは、10月31日(水)、ハスカップ・セミナー2012第5回「ホームヘルパーは見た 介護保険制度の課題」を東京都内で開催した。
ゲストは、この9月に『介護ヘルパーは見た 世にも奇妙な爆笑!老後の事例集』(幻冬舎新書)を出版した藤原るかさん。藤原さんは、区役所の福祉事務所でキャリアをスタートした、この道20年のベテラン・ホームヘルパー。「ともに介護を学びあい・励まし合いネットワーク」を主宰し、2012年介護保険改正での生活援助の削減に抗議するなど、積極的に現場からの提言を行っている。セミナーでは、ホームヘルパーの仕事から見えてきた介護保険制度の問題点、介護従事者を巡る環境についてあますところなく語った。
■生活援助を軽視する制度に異議を唱える
著書『介護ヘルパーは見た 世にも奇妙な爆笑!老後の事例集』(幻冬舎新書)が話題となっている藤原さんだが、実は本のタイトルが決まるまでには一悶着あったそう。
「タイトルの『介護ヘルパー』は出版社の提案で、私はずいぶん抵抗したんです。『介護ヘルパー』は、身体介護のイメージが強く、国が使おうとしている名称。私たちホームヘルパーは、生活全体を見る視点が大切な仕事なので、『ホームヘルパー』を使いたかったんですね」
結局、有名出版社から本を出せば手に取ってくれる人も多く、「訴えたいことが伝わるだろう」と折れたそう。それほどまでに、藤原さんら多くのホームヘルパーが熱意をもって取り組んでいる生活援助が軽視されているのが、今の介護保険制度だ。介護保険のスタート時は90分だった生活援助の時間区分が60分になり、2012年の介護保険改正では45分に。「洗濯も掃除も買い物も15分でできる、組み合わせれば45分以内で可能、と厚労省は言いますが、15分ですむ洗濯機はありますか? 時間内でできない時、ヘルパーは、超過分をボランティアでやっているんです」
■国には高齢者の生活が見えない、わからない
講演では、昨年11月、生活援助削減の改悪に声を挙げた藤原さんの映像も上映された。インターネットの動画サイト「Youtobe」に投稿したこの動画は、著書『介護ヘルパーは見た~』が生まれるきっかけにもなった。
生活援助の削減は利用者にとってどんな影響があるのか。藤原さんが示した「訪問介護の実態及び効率的なサービス提供のあり方に関する調査研究」(三菱UFJ総合研究所 平成19年度厚労省調査事業報告書より)では、生活援助サービスにおける人的資源の有効活用例として、配食サービスなどの利用を提案している。
「45分では料理はできないので配食サービスを、ということですが、1食頼むと650円かかります。援助が出ている自治体もありますが、ホームヘルプは自己負担200円前後ですから利用者さんの負担が大きくなっています。厚労省は45分の時間区分で利用者の負担が少なくなると言っていますが、そうはなっていない。洗濯物も1回では済まず、もう1回訪問するとそれだけ負担が大きくなるんです」
国が生活援助を軽視するのは、「高齢者の生活がわかっていないから」と藤原さんは指摘する。要介護状態で生活援助サービスを利用する人は、家の中でも伝い歩き状態で、掃除機をかけることは難しい。洗濯物を干そうと思っても、洗濯バサミを開く指の力がない。「そういう生活の中での姿を実際に見て、高齢者にとってどんなサービスが必要かを知っているのはヘルパーなんです」。また、藤原さんは、介護サービスを活用していない高齢者が多いとも感じており、「介護保険で手すりの設置などはしていても、生活援助サービスを使っているのは感覚としては10人に1人くらいでは。サービスを活用するのはたいてい85歳以上の人で、介護保険料が上がる中、掛け捨て状態の人が多いと感じています」。
――「ハスカップ・セミナールポ」(2)へ続く
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