市民福祉情報オフィス・ハスカップは、10月31日(水)、ハスカップ・セミナー2012第5回「ホームヘルパーは見た 介護保険制度の課題」を開催した。ゲストのベテランホームヘルパー・藤原るかさんの講演から後半部分を紹介する。
■介護保険改正で、ますます厳しくなる労働環境
藤原さんは、介護保険がスタートした時に、「ホームヘルパーは長く続けられる素敵な仕事。現場でヘルパーの仕事を続けたい」と公務員から民間のホームヘルパーに転身。その気持ちは今も変わらなくても、生活援助の時間短縮後は仕事を巡る環境が悪化、45分仕事して移動、仕事、移動…という繰り返しに青息吐息という現状だそう。
「私は登録ヘルパーなので一日5軒までと決めています。納得できるケアをするにはそれが精一杯。ですが、常勤のホームヘルパーは、一日8~10軒を担当しています。これでは、利用者さんと話をしたり、様子をよく伺ったりすることができにくく、精神的なケアはできない状態です」
移動の時間は賃金に反映されないので、時給1,080円でも半分くらいになり、給料が低く抑えられるという問題も。また、賃金は、介護職員全体でも平均月20万円だが、ホールヘルパーは常勤が3割以下なので、さらに少ないと推測される。平均勤続は5.5年。介護職の離職率の高さが問題視されているが、その原因は、決して働く人の意欲の問題ではなく、ホールヘルプという仕事、介護という仕事の価値が正しく認められていないことにある、と藤原さんは語る。
藤原さんは、毎年「世界のヘルパーさんと出会う旅」を企画し、世界各地を訪れており、現地で見聞きしたヘルパー事情の話もあった。それによると、スウェーデンやデンマークのホームヘルパーは公務員で、給与は30万円台前半。ドイツでは看護師と同様の賃金、イギリスでは社協職員と同じ身分。また、イギリスではヘルパーが2人1組でサービスを行う、韓国では4時間の生活援助が行えるなど、サービスの質にも日本とは大きな違いがあるそうだ。
■ホームヘルパーの職能が理解され、生かされる社会を目指して
日本において、ホームヘルプサービスも働く人も尊重されないのは、なぜだろうか。その回答につながるものとして、藤原さんが言及したのが「在宅介護の本質への無理解」。
「在宅では、そのお宅の鍵を預かることがあり、お金にも買い物に行く時に関わります。介護者や訪ねてくる家族、近所の人と関わりもする。家事のやり方ひとつとってもそれぞれのお宅で異なりますから、利用者の生活文化全体をサポートすることになります。見守りやコミュニケーションも大切な仕事ですが、介護保険では報酬が取れない。ホームヘルプを尊重しないこの国では、人や文化を大事にしようという考えがないのでは、と感じています」
ホームヘルパーの職能の評価が正しくなされていないのは、職種の地位向上の妨げになるだけではなく、人的資源の活用や利用者に資するチャンスも奪っているという。
「0歳から100歳まで、要介護状態にある人をサポートできるホームヘルパーは、幅が広い、すぐれた職能です。例えば、85歳以上のご夫婦の家庭や孤立した方を待機時間が出がちなホームヘルパーが担当し、年に1回でも訪問して援助することができたら…と考えています」
平均5年で離職し、職能を積み重ねていくことができないのは「とてももったいない」と藤原さん。「ホールヘルパーという職能を介護保険の中で正しく使うためにも、介護という仕事の価値を変えていきたいし、介護によって社会の価値を変えていきたい」。
藤原さんのある日の仕事の様子や、処遇改善加算がホールヘルパーにどのように渡ったかなど、現場からならではの情報が盛りだくさんだった今回のセミナー。高齢者の生活を支えるとはどういうことか、国の施策が在宅介護へとシフトする中、ホームヘルプサービスはこのままでいいのか…大きな提言に満ちた講演だった。
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