5月9日、東京都内にて、グラクソ・スミスクライン株式会社主催のメディアフォーラム「手足の筋肉が過度につっぱる症状(けい縮)とボツリヌス療法の実際」が開かれた。
けい縮は、マヒと同様に脳卒中の後遺症として起こり、改善にはリハビリテーションが欠かせない。リハビリを助けるものとして有効なのがボツリヌス療法であり、今回は、脳卒中のリハビリの臨床例をもとにボツリヌス療法の実際についての講演が行われた。
■つっぱりやこわばりのある筋肉の緊張をやわらげる効果が
まず、同社担当者より、A型ボツリヌス毒素製剤「ボトックス」の説明があった。
「ボトックス」は、つっぱりやこわばりのある筋肉に注射し、筋肉の緊張をやわらげる製剤で、ボツリヌス菌が作り出す天然のタンパ質を有効成分とする。ボツリヌス菌と聞くと食中毒のイメージが強いが、毒素はごく微量であり、体内で増殖することはないこと、80ヵ国以上で使用されていることが説明された。
ボトックスの基本情報は以下の通り。
・保険適応。医療費は上肢けい縮の場合に最大投与量の240単位を使用すると、3割負担(70歳未満)で7万688円だが、身体障害者手帳、70歳以上は高額療養費制度が利用可能。また、自治体によっては補助もある。
・医師がボトックスを使用するには、講習・実技セミナーを受講し、資格取得・登録が必要。2012年4月現在使用できる医師は約3500人、ボツリヌス療法を実施している医療施設は約1000。
・情報サイトに、治療を行っている病医院約700を掲載。
■リハビリを阻害するけい縮。背景には現状維持の定説も
続いて、東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座主任教授・安保雅博氏が、メインテーマ「けい縮に対するボツリヌス療法の実際」について講演を行った。安保氏は、脳卒中リハビリの第一人者で、脳卒中の後遺症を持つ患者にボツリヌス療法をいち早く手がけ、豊富な臨床経験を持つ。
講演では、脳卒中が原因の上肢のけい縮を取り上げ、リハビリの現状と課題、ボツリヌス療法の実際とその可能性について豊富なデータを交えながら解説された。
まず、日本では脳卒中の急性期の治療が進み、命を落とす人が減っている反面、後遺症を抱えながら生活している人が増加し、約40万人が外来で診療を受けていることが説明された。
続いて、脳卒中が原因の機能障害は、マヒの回復具合・日常生活動作ともに30日以内がもっとも回復度が高く、90日過ぎくらいからは機能は改善せず、現状維持が定説となっていることが示された。
つまり、脳卒中の患者は、できるだけ早く急性期から回復期の病棟に移し、90日までの間にリハビリをしっかりやることが大切だが、「回復期のリハビリは、歩行訓練や排便を自立するための訓練が中心で、上肢の訓練は重視されていない。家に帰るには歩けて、片手が使えればいいとされているのが現状」だという。
「しかし、患者さんにしてみれば、もっと手を動かせるようにしたいという気持ちがあります。少しでも手が開き、腕を曲げたり伸ばしたりができるのならリハビリで機能が改善する可能性がありますが、それを阻害しているのがけい縮です」。
これまで、けい縮への対応としては、温めたり薬を飲んだりするほか、フェノールブロック注射が一般的だったが、フェノールブロックは筋肉の中心に太い注射針で打つため痛みが強く、2回目以降は拒否する患者が多かったそう。
また、けい縮が起きる割合は、発症後3カ月で19%、12カ月で38%で、「時間がたつにつれて割合が高まるのはさまざまな原因がありますが、ちゃんと訓練をしている人はけい縮が少ない傾向にあります」と安保教授。訓練のモチベーションを下げているのが、「現状維持」という定説であり、「現状維持と言われたら、誰が熱心に訓練するだろうか」と、リハビリにおける問題点を指摘した。
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