5月9日、東京都内にて開催されたグラクソ・スミスクライン株式会社主催のメディアフォーラム「手足の筋肉が過度につっぱる症状(けい縮)とボツリヌス療法の実際」では、東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座主任教授・安保雅博氏が、脳卒中のリハビリにおけるボツリヌス療法の効果について講演した。
ボツリヌスが2010年10月に認可されて以来、慈恵会グループで薬剤を注射した患者は932人で、そのうち600人を安保教授が担当している。
ボツリヌスは、これまでけい縮の治療に用いられてきたフェノールブロックと比較して注射が簡単であり、使用針は基本的に予防注射と同じ針なので、患者の負担が小さくてすむ。また、有害事象はアスピリンより少ない程度。量を少なめに注射する医師もいるが、効果を出すためには最大量を注射することが必要だという。
安保教授は、リハビリテーション医としてボツリヌス療法でけい縮をやわらげることで、リハビリを容易にし、機能の改善につなげることを目指している。しかし、ボツリヌス療法で先行する諸外国においても、そうした研究はあまり進んでいないのが現状だ。
「筋肉がやわらかくなり、関節可動域が広がることで、日常生活動作が少し改善する『受動的な機能』での効果は認められているが、『能動的な機能』ではそれほどではないというのが世界的な潮流。背景には、脳卒中のリハビリの効果は発症後3・4ヵ月以内がピークという定説のため、目的筋への注射が十分ではないことなどがあります」。
安保教授が取り組んでいるのが、「ボツリヌス療法は、脳卒中のリハビリを変えられるか」という命題。158人のけい縮の患者のうち、指がこわばり、自分で開けない80人にボトリヌスを注射し、適切な訓練するとどうなるかという治験を行い、上肢の機能評価を行っている。
評価を通し、正しく訓練を行い、中枢の動きを評価しながら注射することで、能動的な動作での機能が上がることがわかってきたという。「リハビリのモチベーションも上がり、自主訓練がしやすくなる。そうすると、脳の機能の再構築が起こり、能動的な動作が獲得できるのではと考え、それを証明しようとしているところです」
また、磁気刺激のリハビリにボツリヌスを併用する試みも。リハビリの前には体を温めてやわらかくする運動が必要だが、ボツリヌスで筋肉がやわらかくなっていると、その時間を節約でき、医療保険での限られたリハビリの時間を有効に使えるメリットもあるそうだ。
講演の最後に、安保教授が患者に注射を行い、リハビリの指導をしている映像が映され、脳卒中の発作後10年以上たつ人がリハビリに取り組む姿もあった。現状維持から、機能の改善へ。脳卒中のリハビリに光を感じさせてくれる講演となった。
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