日本医科大学、川崎市、老人病研究会は、2月11日、文部科学省社会連携研究推進事業5年間の総まとめとして、認知症市民公開講座「都市部での認知症の治療とケア〜脱無縁社会へ・川崎での取り組み〜」を開催した。
2部のパネルディスカッション では、専門家、市民、外国人という立場で4人のパネリストが発言した。都市部での高齢化が急速に進むというデータを示し、1人暮らしの認知症の女性を地域包括支援センター職員が訪問して支える取り組みが紹介され、サービスを拒否する人をどうしていくか、無縁社会にならないためにどうしたらいいかなどが問題提起された。
【早期発見に貢献、敷居の低い相談センターの効果大】
パネリスト 北村伸 (社会連携研究推進事業研究代表、日本医科大学武蔵小杉病院内科 教授)
街ぐるみ認知症相談センターではこれまでに延べ2,800人以上から相談を受け、3割にもの忘れが始まっていると診断し、早期発見に役立っている。病院ではないので敷居が低く、無料ということで、病院には行かない人が来ていると思われる。地域との連携が大事。今後は、成年後見制度の紹介なども取り入れて行きたい。今回、改めて川崎市は無縁社会ではないことがよくわかった。少しでも認知症の方が安心して暮らせる街づくりに協力していきたい。
【スウェーデンの認知症介護事情】
パネリスト グスタフ・ストランデル(介護付有料老人ホーム舞浜倶楽部 総支配人)
かつては、どこの国でも人里離れた施設の大部屋で、寝たきりの生活を送らされていた。今は、その人らしい暮らしができる施設に変わってきている。さらに、認知症になってもその人らしい暮らしができるケア(パーソンセンタードケア)を目指している。例えば、スウェーデン国籍のシリア人も、認知症になるとシリア人に戻るので、シリア語での介護が必要になる。
今回の震災で、日本はいざとなったら縁のある社会だとわかった。私は川崎市の福祉用具委員会メンバーでもあり、川崎市には縁があり、今後も付き合っていきたい。
【地域で暮らしていくためにも、もっと成年後見制度を利用して】
パネリスト 池田惠利子(東京都福祉保健財団 高齢者権利擁護支援センター アドバイザー)
スウェーデンなど欧米では、同居率は低くても、毎日のように接触する割合が高い。日本人は、一旦別居すると疎遠になる傾向があるのかもしれない。自宅で暮らせなくなったら施設しかないのか。そういう時代ではないのではないか。
地域で支えることが大事。1人暮らし、老老介護、認認介護など、孤立して、何が困っているかわからないケースも増えていく。悪徳商法の被害では、認知症が3/4を占めている。成年後見制度は、その人らしい人生が歩めるように、口約束ではなく、裁判所が人を選ぶ制度。スウェーデンなどは利用度が高いが、日本はまだ非常に少ないので、もっと普及させたい。
【家族会と市民、市の支援で作られた認知症ネットワークの取り組み】
パネリスト 柿沼矩子(川崎市認知症ネットワーク 代表)
認知症の人は新しいことに弱い。「説得よりも納得」を合言葉に、安心感を与える導入を心がけて、趣味の仲間で声をかけるなどして、専門的な支援に結びつけている。私が代表を務める「川崎市認知症ネットワーク」は、30年前から少しずつ増えていった家族会と、それに賛同してくれる市民団体によって、市に支援を求めて、平成8年にスタートした。認知症啓発のための寸劇、電話相談、面接相談、専門医の紹介など。家族がその都度、対処の仕方を聞きに来るなど、心の拠り所となっている。しかし、徘徊の保護先の2/3が市外という現実もある。ますます、地域の理解、見守り、支え合い活動が大事。
今回の被災地で認知症の患者を弾き飛ばさずに支え合っている地区は、子どもも含めて認知症サポーター養成講座を受け、コミュニティが図れていた。元気なときから、支え合う川崎を作っていきたい。
【会場からの質問を受けて】
Q 家族介護としての限界は?
(回答/池田)1人で悩んでいないか。ショートステイを利用してリセットしてみては。
Q 認知症家族に怒ってしまうときは?
(回答/柿沢) 頭で理解できても心は伴わない。悪循環に陥ることがある。そんなときは、散歩をしてみたり、隣の部屋で気持ちを落ち着けるなど、少し距離を置いてみる。一人で抱え込まず、相談窓口や友人などに思いを分かち合ってもらうように。特に、男性介護者は1人で抱えてしまう傾向にある。近所の人がやさしい声をかけることも有効。認知症について勉強することも役に立つ。
■関連記事
・鍼灸・漢方治療で認知症患者が落ち着き取り戻す――市民公開講座レポ(2)
・認知症予防には酸化ストレス取り除く水素が有効――市民公開講座レポ(1)