日本医科大学、川崎市および老人病研究会は、2月11日、文部科学省社会連携研究推進事業5年間の総まとめとして、認知症市民公開講座「都市部での認知症の治療とケア〜脱無縁社会へ・川崎での取り組み〜」を開催した。
ここでは、1部の講演の後半を紹介する。
【予防効果につながった脳機能の数値計測】
演者 田中美枝子(脳機能研究所)
脳機能研究所は、2008年3月から、「街ぐるみ認知症相談センター」の中で、脳機能活性度を見るために、希望者に対して脳波の継続的な測定を実施してきた。その目的は、予防活動の効果を数値で実感してもらうことと、認知症の症状軽減のためのリハビリ効果を具体的な数値で実感してもらうこと。
4年間で利用した約200名、延べ約800件。数値を励みに測定を継続できたのは半数の100名で、認知症と診断されてその後中断した利用者が10名ほどいた。脳機能活性度測定は、医療機関を受診するほどではない人には手軽で有効なサービスと言える一方、発症してしまった利用者には有効だとは言えなかった。問題点が浮き彫りになったことは、今後の活動のためには有意義であった。
【かかりつけ医同士の連携と、専門医療機関との連携の意義】
演者 羽鳥裕(神奈川県医師会理事・川崎市内科医会会長)
循環器を中心にした内科系の開業医。日本医科大学武蔵小杉病院認知症センターには多数の患者さんの診断、今後の治療、サポートのあり方などの指導を仰いでいる。厚生労働省の次期国民健康作り策定専門委員会の地域医療の立場でかかわっている。開業して20年になるが、認知症の発症は増えている。特に、軽度認知症が増えてきている。在宅医が連携を取り合うことで総合病院的な働きができる。
厚生労働省が提唱している健康政策に、認知症対策も加わった。認知症を精密に診断、先進的な治療を行う専門医療機関と、実生活の中で見ている地域医療機関の緊密な連携によって川崎での認知症治療のレベルアップに寄与したい。
【川崎市からの報告〜「かわさきらしい都市型の地域居住の実現」をめざして】
演者 成田哲夫(川崎市健康福祉局長寿社会部 部長)
川崎市は比較的若い都市だが、急激な高齢化が予想される。地域包括支援センターを49箇所(今後7箇所増設)、権利擁護センター8箇所を設置。「かわさきいきいき長寿プラン」として、認知症サポーター100万人キャラバン(7,700人受講)、認知症サポート医養成研修、認知症介護実践者研修、認知症コールセンター、川崎市あんしんセンターなどに取り組んできた。今後2年間の取り組みとして、「認知症疾患医療センター」の設置、医療と介護の連携のための連絡会の設置、市民後見人養成に向けた検討を、重点的な取り組みと考えている。
【認知症の統合医療】
演者 川並汪一(社団法人老人病研究会会長)
2007年から始めた認知症街ぐるみ支援ネットワークは、やさしさと誠意をモットーに、街の仲間のよろず相談を受けることと、国内外の諸団体と連携して予防医学を研究し、認知症の診断、治療に努力しようという挑戦を開始した。その矢先、患者家族からの「ケアよりもキュアを」との訴えに衝撃を受け、治療法の模索が始まった。
たどり着いたのは鍼灸・漢方を中心とした中医学。認知症Gold-QPD育成講座事業を立ち上げ、2011年暮れに第1期生22名を世に送り出した。彼らは認知症の西洋医学的知識を学び、高齢者介護施設で研修トレーニングを受け、誰にもできない特殊の「三焦の鍼法」を実践。その結果、認知症患者が落ち着きを取り戻すといった成果が見られ、家族や介護士の負担を和らげることにつながっている。
川並汪一老人病研究会会長
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