欧米先進国に比して利用少ない「成年後見制度」――シルバーサービス振興会

社団法人シルバーサービス振興会は、10月20日、第235回月例研究会を都内で開催した。
今回は、中央大学法学部教授・筑波大学名誉教授の新井誠氏を講師に招き、「成年後見法・介護保険法施行10年を振り返って」と題し、介護サービスにおける成年後見制度の現状と課題について講義を行った。

成年後見法は、2000年に介護保険と同時にスタートした。それまでは知的障害者や精神障害者など、判断能力のない人については「禁治産制度・準禁治産制度」によって、家族の申し立てがあると、裁判所は鑑定をした上で後見人を立てていた。
しかし、「禁治産制度は、選挙権の剥奪など欠格事由が多く差別的であり、本人のためというより親族のための法律だった」と、新井氏は旧制度を振り返った。

成年後見制度に改められたきっかけは、介護保険の導入だったと新井氏は語る。「介護保険は契約によって成立するサービスだが、判断能力のない認知症の人の契約は無効になる。しかしそれでは、多くの人が利用する制度としてはふさわしくないため、介護保険誕生を機に成年後見制度ができた。つまり、成年後見法と介護保険法はいわば車の両輪としてスタートしたのです」。

成年後見制度は「ノーマライゼーション」「自己決定権の尊重」「身上保護の重視」という3つの理念のもとに誕生したが、なかでも「身上保護の重視」という項目は重要だと新井氏は語る。
「これは、これまでの『財産の管理・維持』だけではなく、身上(=生活、医療介護福祉)を守るために、本人の財産は積極的に本人のために使うことが定められている、実に画期的な法律」と、旧制度からの大きな飛躍について説明した。

成年後見法には「任意後見」と「法定後見」があり、前者は能力のあるうちに自己決定し、能力がなくなってもその内容が継続されるというもの。本人の自己決定と保護の両方を担保できるもので、財産のみならず延命治療の是非なども、自らの意思で決めておくことができる。そして「この任意後見が現在、世界の主流となっています」と新井氏は説明した。
しかし利用にあたっては、任意後見人(本人が信頼する人を指名する)のほかに、家庭裁判所が選任した任意後見人を監督する「任意後見監督人」を定めて、任意後見人を監督する必要があり、「任意後見監督人」の費用も本人が負担するなど、なじみがないだけに、複雑で使いにくい制度のように見える。

一方、「法定後見」とは、「任意後見人」を選択していない人が利用できる制度で、本人の能力に応じて「補助」「保佐」「後見」がある。「被補助人」は、MCI(=軽度認知障害)など、いわゆるまだらボケ状態の人などを対象とし、「保佐」「後見」となるほど、症状が重い人を対象とする。
新井氏は「要介護の人の75%は被補助人」と語り、「被補助人には欠格事由がないため、発想としては『補助人付き医師』『補助人付き弁護士』というのもあり、それこそが真のノーマライゼーション」だと語った。

介護保険と車の両輪としてスタートした成年後見法だが、その運用実績ははかばかしくない。施行年から2009年までの10年間では、任意後見は約4万人、法定後見は約16万8,000人が利用しているが、「シルバー世代の重要なインフラのひとつなのに、他の先進国と比較すると、この数字は少なすぎる」と嘆いた。介護保険の利用者は現在400万人強いることを考えると、確かに、この数字は少ない。

要因として、日本人が契約社会になじみが薄いこと、お金がかかることなどが挙げられる。新井氏は、「ドイツや北欧は成年後見制度を市民後見人も関与するいわば公的サービスとして捉え、国も莫大な予算を投入している。一方、米英はビジネスとして法人が参入している」と後見人制度先進国の例を挙げながら、「日本はその中間の形をとるのが理想」と語った。現状では、日本の裁判所は株式会社の参入を認めていないが、積極的に法人が参入し、多くの人をかかえられるようになれば費用も下がることが考えられる。ともあれ、成年後見制度の普及については今後も大きな課題が残されている。

◎シルバーサービス振興会

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