特定非営利活動法人全国在宅医療推進協会は、6月5日、立川在宅ケアクリニック院長の井尾和雄氏を講師に招き、「後悔しない最期の時の迎え方」をテーマに、世田谷区立保健センターで第9回市民公開講座を開いた。
講演の前半では、日本における死の現状について説明し、後半、井尾氏が院長を務める立川在宅ケアクリニックでの取り組みについて紹介した。
「この国は甘い。死に方も死なせ方も知らない」という厳しいコメントから始まり、まず、死に関連するさまざまな統計を紹介。
2009年人口動態調査によると、全体の80.8%にあたる92.3万人が病院で亡くなっており、自宅で亡くなったのは12.4%(14.2万人)。
一方、海外と比較すると、アメリカでは、病院での死亡が41%で、高齢者施設が22%、自宅が31%。オランダの場合は、病院、高齢者施設、自宅が同程度で、35%、33%、31%という構成だった。
より顕著だったのは、「がんの病院死亡割合」の比較。日本では91%が病院で亡くなっているのに対し、アメリカは37%、オランダは28%という結果だった。
さらに、病院での看取りの過程を紹介し、急変によって施設や自宅から病院へ運ばれたときには「悲惨なこと」も多いと指摘。
延命治療は行わないと本人や家族が決めていたとしても、
・気管内挿管または気管切開&人工呼吸
・心臓マッサージ
・静脈確保(内頚、そけい部)
・動脈確保
・膀胱バルーン留置
があっという間に行われ、入院生活が始まった後も、人工呼吸、点滴、浮腫、腹水、胸水、痰、利尿剤、昇圧剤…と、「溺れてやっと呼吸停止になる」。こうした現状について、「溺れ死にみたい」と表現する医師もいるという。
しかも、“延命”のためのさまざまな処置によって、家族には高額な請求書が渡される。
ただし、「尊厳死を希望する人は増えている」と井尾氏は言う。
厚生労働省が1993年以来、5年おきに実施している「終末期医療に関する調査」によると、余命6カ月の末期がんと言われた場合、延命治療を「続けるべき」と考える人は2008年調査では11.0%で、7割以上は「やめたほうがいい、やめるべき」を選択している。また、延命治療を中止した後に望む治療としては、「痛みなど苦痛を和らげることに重点を置く」が過半数を占めている一方で、「自然に死期を迎えさせる方法」が増えている。
一方で、末期がん患者が自宅で最期まで療養可能かという設問では、「実現可能」という回答は6.2%に過ぎず、「実現不可能」が66.2%、「わからない」が25.7%という結果だった(2008年調査)。
実現不可能な理由として挙げられていたのは、「介護してくれる家族に負担」、「病状が急変したときに不安」、「経済的に負担が大きい」、「急変時に入院できるか不安」、「往診してくれる医師がいない」など。
国は、2007年4月に24時間365日体制で在宅で患者を見守る「在宅療養支援診療所」を新たに設け、さらに2008年4月施行の「がん対策基本法」では早期からの緩和ケアや在宅での支援を強調するなど、在宅、施設での見取りを増やす方針を打ち出している。
しかし現実は、全国で1万施設以上が在宅療養支援診療所に登録している一方で、看取り数0の施設が2008年度で56%、在宅患者0の施設も15%と、「名ばかりの在宅療養支援診療所が増加しただけ」と、井尾氏は指摘した。
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