日本社会福祉士会は、このほど、成年後見制度とその運用の改善を求める提言を細川律夫厚生労働大臣らに手渡した。同会が提言している論点は主に以下のとおり。
【医療行為への同意】
骨折や胃ろうの造設など、後見人の判断が困難と考えられる医療行為については、複数の医師や第三者が関与した倫理委員会での判断など、専門性と客観性が担保された第三者機関に後見人が相できる仕組みが必要である。現在は、全く縁のない親族に医療行為の同意を得ているケースがあるが、本人にとって望ましいとは言いがたい。また、インフルエンザ等の予防接種などは、後見人に権限を認める方向が望ましい。
【生活保護や低所得者への対策】
資力のない被後見人の制度利用に対して、生活保護制度に「後見扶助」の創設が必要。後見報酬を予算化していない自治体がほとんどで、生活保護者の後見人が見つからないという実態がある。また、成年後見制度は財産管理だけでなく、日常生活を支援するなど、権利擁護の側面から、制度的な支援が必要である。
【成年後見制度利用支援事業】
成年後見制度利用支援事業は、現在任意事業となっているため、成年後見の申し立て手続き費用助成などに地域格差がある。どこに住んでいても、資産がなくても制度の活用ができるように、全市町村で必須事業に位置づけるべきである。
【後見人等への監督体制】
後見活動の質を担保するために、家庭裁判所は、専門職団体との連携を取りながら包括的な監督体制を構築すべきである。
【報酬のあり方の明確化】
成年後見人の報酬の根拠を明確にすべき。低所得者や生活保護受給者への後見活動の方が後見人としての対応が多くなる傾向がある。にもかかわらず、正当な報酬が得られていない。報酬額は、本人のために行った実務の内容によって決定されるべきである。
【公的後見センター(仮称)の創設】
各自治体に「公的後見センター(仮称)」といった、成年後見制度の利用を公的責任で保証する仕組みを創設して、認知症で万引きを繰り返すといった困難性の高い事案や、資力が乏しくても専門職の支援が必要な事案などへの対応ができるようにすべきである。
【3類型について】
後見・補佐・補助の3類型は、現状の課題から今後、検討が必要。最初から類型に合致していないと思われる案件があったり、類型に当てはめるのが困難な事例もあり、さまざまな立場から経木検討が求められる。
【死後の事務】
本人の死亡と同時に後見人の権限は失うが、一定の死後事務を行わざるを得ない現状がある。成年後見人として、望ましい職務範囲を明確にして、それを超える実務について、行政や関係機関がどのように関わるのかの整理が必要。本人の死後事務にどこまで本人の資産を使ってよいのかなど、さまざまな課題がある。このまま放置することは限界である。