AI導入、ケアマネと利用者の “潤滑油”に―日本初の研究成果は?

昨年11月からの約3カ月間、ケアプランの作成にAI(人工知能)を活用した日本初の実証研究が愛知県豊橋市で行われた。参加したケアマネジャー33人は、AIが提案した自立支援型の介護サービスの組み合わせを参考に、利用者71人分のケアプランを実際に作成。AIの導入がケアマネと利用者・家族とのコミュニケーションの“潤滑油”になるなど、想定外の効果も見られ、ベテランのケアマネからも評価の声が上がっているという。

実証研究で使用されたAIは、セントケア・ホールディングなどが出資するベンチャー企業「シーディーアイ」(東京都中央区)が開発した。

同社は昨年夏、豊橋市が保有する介護保険のデータのうち、「認定調査票」「主治医意見書」「介護給付費明細書」(以下、介護レセプト)の3項目について、ディープラーニング(深層学習)を活用してAIに学ばせた。対象となったデータは、2009年度から8年分となる約10万件に上った。

同社が目指すのは、自立支援型のケアマネジメントの実現だ。自立支援について広く知ってもらおうと、同社では実証研究の開始に先立ち、市民や専門職を対象としたセミナーを開催。最終的に、居宅介護支援事業所や地域包括支援センターで働くケアマネ33人が実証研究に参加した。

■入力は約10分、3つのプランを提案

実証研究の流れはこうだ。ケアマネはまず、利用者(新規または更新)の要介護認定の項目と主治医意見書の項目の一部をパソコンかタブレット端末に入力する。同社によると、入力に必要な時間は「5-15分程度だった」という。

ケアマネの入力情報を基に、AIは過去のデータの中から、状況が最も似ている利用者を選択。そして、ADL日常生活動作)やIADL手段的日常生活動作)の改善が見られた介護サービスの組み合わせを提案する。一部の珍しい事例を除き、3つのプランが示されるという。AIの提案を受け、ケアマネは、自立支援に対する意欲や生活環境など、それぞれの状況に合わせた修正を行った後、利用者や家族への説明などを経て、最終的なケアプランを確定させる。


AIの予測のイメージ(シーディーアイ提供)
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■「秘書みたい」、ベテランからも高評価

「AIが予測したサービスを取り入れてみませんか?」―。ケアプランの内容を利用者や家族に説明する際、担当のケアマネの口からは、「AI」という言葉が自然に出た。最近、AIの話題がメディアをにぎわせていることもあり、利用者からは「最先端のAIが選んだサービスならば、ぜひやりたい」といった前向きな声も上がったという。

ケアプランの内容に自信を持てず、ご利用者への説明に不安を感じている方もいるようです。AIは、そうした方の背中を押した面もあったと思います」。実証研究を担当した同社経営戦略室の橋本将一マネジャーはこう話す。

実際、参加したケアマネからは、「AIと同じケアプランを作っていたことが分かり、ご利用者への説明の際に自信が持てた」との感想もあった。ベテランのケアマネからは、「秘書みたい」「“答え合わせ”ができる」といった声もあったという。

橋本マネジャーは、「ケアマネジャーは、ものすごく親身になって考えるので、ご利用者やご家族と同じ目線になりがちです。説明の際の客観的な資料として、第三者の視点の必要性を感じているのだと思います」と指摘する。

■AI予測、ケアマネに思わぬ“気付き”も

AIの予測が、ケアマネに思わぬ“気付き”を与える出来事もあった。それは90歳代の女性の事例だった。女性には認知症の症状があったが、家族と同居していたこともあり、担当したケアマネは、介護の人手に比較的余裕があると感じていた。ところが、AIは、デイサービスショートステイの組み合わせを提案した。

ショートステイは、介護する家族を休ませるためのレスパイトケアの意味合いが強いため、ケアマネ側は当初、AIの予測に懐疑的だった。しかし、サービス担当者とも話し合い、最終的にショートステイの利用が決まった。

AIの狙いは、レスパイトケアとは別のところにあった。女性はデイサービスを利用していたが、外へ出ない日は、一日中パジャマで過ごすこともあったという。ショートステイがある日は、洗顔や整髪といった外出時の身支度に始まり、就寝時は洋服からパジャマへの着替えもある。こうした生活のリズムが、女性の自立支援につながるとAIは考えたのだ。

「最近では、朝起きた際、ご家族に『おはよう』と言えるようになったそうです。担当のケアマネジャーは『AIの効果をポジティブに知ることができた』と話していました」。橋本マネジャーはこう振り返る。

■今年後半にも、事業所への提供開始へ

今後の大きな課題は、AIが提案する自立支援型の介護サービスの“精度”を高めることだ。今回の実証研究では、期間が短かったこともあり、利用者の自立支援にAIがどの程度貢献したか、目に見える効果は得られなかったという。

サービスの組み合わせを提案するAIは、利用者や家族の話を聞き、アセスメントを行った上でケアプランの原案を作る、現状のケアマネジメント業務とは正反対の流れだ。実際、参加したケアマネからは「サービスから入ることに抵抗感がある」との声も上がった。ケアマネ側は、AIの提案を居宅サービス計画書に反映させる必要があり、「第2表」の目標にどう落とし込むかも課題の一つだ。

橋本マネジャーは、「AIはサービスの組み合わせから提案しますが、高度なアセスメントによってプランを示しているとの見方もできます。どのように使うかは、最終的にケアマネジャーの判断になります。当社としては、ケアマネジャーやご利用者にとって良い形で、AIの活用が進んでいけばと考えています」と話した。

同社では今年後半にも、一般の事業所向けのサービス提供の開始を予定している。

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