市町村での高齢者の運転免許証の自主返納を促すための取り組みが加速している。中には返納した高齢者にIC乗車券を配布したり、地元の商店などで使える商品クーポンを提供したりする自治体も。さらに国は、高齢者に対し、一定の条件の下で運転を認める「限定免許」の導入に向けた検討も開始した。
75歳以上の運転免許保有者数は年々増加しており、2017年末には500万人に達する見通し。その一方で死亡事故も増えており、15年時点で高齢運転者(75歳以上)による過失で起きた死亡事故は、10万人当たり9.6件で、75歳未満(4.0件)の倍以上に達している。
こうした状況を踏まえ、国は今年3月に改正道路交通法を施行した。この法律の施行によって、75歳以上の運転者は、免許の更新時の検査で認知症の疑いがあると判定されると医師の診断を受けなければならない。診断の結果、認知症であることが判明すれば免許は取り消される。
さらに、全国の警察では、運転する自信がなくなった人に対し、自主的な免許返納を促している。この免許の自主返納を進めるため、各地の自治体ではさまざま取り組みを進めている。
■市内209カ所で活用できる割引券を提供―金沢市
金沢市では、9月25日から、運転免許証を自主返納した70歳以上の高齢者を対象に「金沢元気わくわくクーポン」を配布する事業を開始した。免許を自主返納した高齢者が市に申請すれば、同市内の協賛店や公共施設など209カ所で活用できる割引クーポンの支給が受けられる。各店舗での優遇サービスの提供は10月1日から始まっているという。
■5000円分のIC乗車券を配布―千代田区など
また、東京都千代田区では10月から、運転免許証を自主返納した高齢者を対象に、1人あたり5000円の利用料金を加えたSuicaやPASMOなどのICカード乗車券を配布する事業を開始した。
対象となるのは、今年4月以降にすべての運転免許証を返した70歳以上の人で、申請できるのは1人1回。期限は返納後1年以内としている。同じく23区の杉並区では、75歳以上の区民を対象に同様の取り組みを既に行っている。
さらに埼玉県坂戸市では9月から、運転免許を自主返納した人が申請すれば、市民バスを利用できる特別乗車証や回数券を受け取れる事業を開始。北海道苫小牧市では地域通貨を提供する取り組みを実施している。
■高齢者への限定免許の交付や実車試験導入も検討―警察庁
市町村が独自の取り組みによって高齢者の運転免許の自主返納を進める中、警察庁は2日、特に80歳以上のドライバーについて、より抜本的な安全対策を検討するために、有識者による会議を立ち上げた。会議では、運転できる道路や時間帯を限定したり、自動ブレーキなど高度な安全装置を搭載した車だけの運転を認めたりするなどの「限定免許」の導入の是非について、海外の事例も踏まえながら検討する。さらに人で事故を起こしやすいと思われる人への実車試験の導入なども検討する方針だ。