富山大学和漢医薬学総合研究所神経機能学分野の研究グループは、アルツハイマー病の記憶障害を改善する薬物や作用機序を解明する新たな方法によって、生薬の「骨砕補エキス」に含まれる有効成分が脳内の神経細胞に作用して記憶が改善することを突き止めた。
研究グループは、かねてよりアルツハイマー病における脳内の神経回路網破綻を再修復する薬物を見出し、それらが病態が進行した状態でも記憶障害を回復させることができることを示してきた。しかし、従来の研究では、経口投与後の薬物の代謝や標的臓器への移行といった生体内での過程を考慮できず、真の活性化合物を同定することができなかった。また、有効な効果を示す和漢薬を見出してもその作用機序を科学的に説明することとができず、創薬の推進には十分でなかった。
今回、研究グループは、微量成分も検出できる質量解析法により、「骨砕補エキス」をモデルマウスに経口投与した後、脳内に移行する化合物を直接検出。その結果、エキス中にもともと含有されている「ナリンジン」という成分が代謝を経て「ナリンゲニン」および「ナリンゲニングルクロン酸抱合体」になって脳内に移行していることを明らかにした。さらにそれら代謝物が軸索修復作用を有していること、記憶改善作用を示すことも証明した。
研究では、「ナリンゲニン」が神経細胞中で最初に結合する分子を網羅的に調べる手法によって、「ナリンゲニン」が軸索形成をコントロールすることを知られている「CRMP2」というタンパク質に結合し、「CRMP2」 のリン酸化が抑制さ れることも確認した。これらの成果は、アルツハイマー病の新しい治療薬創成へとつながる可能性があるという。
◎富山大学 ニュースリリース
https://www.u-toyama.ac.jp/outline/publicity/pdf/2017/0613.pdf