東京農工大学は、3月8日、大学院工学研究院応用化学部門の村上義彦准教授の研究グループが、複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲルの開発に成功したと発表した。
複数の抗がん剤や補助薬を併用することが多いがん治療や、高齢者などの在宅での投薬治療では、投薬スケジュールを守り、薬の飲み忘れを防ぐための技術開発が求められている。
そこで、研究グループでは、体内に薬を運ぶための入れ物として利用されている構造体(ミセル)に着目。これまでの薬物キャリアは単体で血液中に投与して用いられてきたが、「物質の放出速度が異なるミセルをゲルの内部に固定化する」という新しい材料設計アプローチにより、複数の物質の放出を自在に制御できるゲルの開発に着手した。
研究では、高分子とミセルを混合することで、数秒以内に迅速にゲルを形成。ミセルを形成する分子の組成によってミセル内部の固さを選ぶことができるため、内部が固いミセルからの物質放出は遅く、内部が柔らかいミセルからの物質放出は速いというように、物質の放出の制御が可能になった。
これにより、各成分を溶解した2つの水溶液を体内に注入し、治療用のゲルを体内で形成して留置するだけの患者に優しい新しいがん治療法が実現する可能性が生まれた。また、皮膚に貼付するパッチ材料の中に複数の高分子ミセルを固定化することによって、高齢者でも簡単に使える投薬スケジュール通りに複数の薬が放出されるゲル状のシートが実現する可能性があるという。今後は、抗がん剤などの各種薬物を用いてゲルを作製し、その治療効果を評価する予定だ。
◎東京農工大学 プレスリリース
http://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2016/20170308_01.html