奈良県立医科大学は、8月2日、先端医学研究機構生命システム医科学分野脳神経システム医科学坪井昭夫教授らの研究グループが、においの情報処理を行う神経細胞の研究で、神経疾患の予防や治療法への応用が期待できるメカニズムを解明したと発表した。
ほとんどの神経細胞は大人になると新しく生まれることがないが、においの情報を処理する嗅球における「介在ニューロン」と呼ばれる神経細胞は、例外的に成体でも生まれて新しい回路を作り続けていることが近年の研究から明らかになってきている。この神経回路は、外界からの刺激に応じて環境に適応した神経回路へと作り変えられるが、その仕組みはわかっていなかった。
今回、研究グループは、においの刺激に応じて発現量が変化する遺伝子のなかで、膜タンパク質の5T4という遺伝子に着目し、それを発現している神経細胞の機能をモデルマウスで調べた。
まず、5T4の機能を失ったマウスを用いて電気生理学的な実験を実施したところ、5T4顆粒細胞は、情報を受け取る働きを持つ樹状突起の枝分かれの減少により、他の神経細胞との樹状突起を介した接続の減少が判明した。また、5T4の機能を失ったマウスに行動実験を行ったところ、においを感じる度合いが通常のマウスより100倍も低下し、においを嗅ぎ分ける能力に異常が確認された。
この結果から、今後5T4顆粒細胞の人為的な活性化が可能になれば、嗅覚障害などの神経疾患の予防や治療法の開発が期待できるという。また、嗅球介在ニューロンはヒトでも新生・再編が認められ、神経回路の修復能力も明らかになっていることから、脳卒中などで神経細胞が死滅した際に、5T4顆粒細胞を損傷部位に移植することで、神経障害を回復させるという再生医療への応用にもつながることが考えられるという。
◎奈良県立医科大学 報道資料
http://www.naramed-u.ac.jp/university/kanrenshisetsu/sangakukan/documents/tsuboi-houdouhappyou.pdf