九州大学は、5月25日、同大大学院医学研究院の山﨑貴男学術研究員と飛松省三教授らが、軽度認知機能障害 (MCI)の新たなバイオマーカーを発見したと発表した。
認知症予備群と言われるMCIの人は、2012年の時点で約400万人と推計されている。2025年には高齢者の5人に1人は認知症になると予測されているなか、MCIの早期診断・介入は喫緊の課題だ。
MCIの早期診断には、脳脊髄液検査やアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドを検査するアミロイドイメージングがバイオマーカーとして報告されているが、体への負担やコストが問題となり、理想的なバイオマーカーは未だ確立されていない。
人が直進方向に移動する時に生じる外界の放射状の動きを、オプティック・ フロー(OF)と言う。OFは自己運動の知覚に関与し、後部頭頂葉で処理されるが、アルツハイマー病や MCI患者では、後部頭頂葉が障害されやすいため、OF知覚が障害されると言われている。
山崎研究員・飛松教授らは、2012年にこのOFに着目し、誘発脳波を用いることで、MCI患者ではOFに対する脳反応が特異的に低下していることを確認した。
今回、両氏は、九大病院物忘れ外来と共同で、新たな患者群を対象にOF刺激を調べた。その結果、OFに対する脳反応は、高い特異度と高い感度で、MCI 患者と健常老年者を区別できることを発見した。
誘発脳波検査は身体に害を及ぼさず、コストパフォーマンスが高いことから、OF刺激が MCIの早期診断バイオマーカーとなることが期待される。また、社会問題になっている認知症患者の行方不明や危険運転はOF知覚の障害と関連があることから、今回の手法は認知症患者が行方不明になったり、危険運転の起こしやすいかどうかの判定に利用することも期待できるという。