厚生労働省は7月29日、第66回社会保障審議会介護給付費分科会を開催し、認知症高齢者グループホーム等における非常災害対策に係る基準の見直しについて議論が行われ、避難・救出訓練について、「地域住民の参加が得られるように努めなければならない」という規定を、施設の運営基準に新たに追加することで了承された。
これは、今年3月に発生した札幌市認知症高齢者グループホーム火災により行われた緊急調査で、近隣住民の参加を求めている事業所が26.5%という結果から提案されたもの。担当の千葉認知症対策室長からは「本来、地域密着型サービスというのは、地域との交流が前提となるが、避難訓練に関してそれが盛り込めていなかった」という経緯が説明された。
また、会議冒頭であいさつした山野井政務官は、「安全性を重視すると、時には、住み慣れた居心地の良さと対峙してしまうこともある。認知症の方々の尊い命を守る条件をクリアしつつ、規則でがちがちにしてグループホームを作りにくくしてしまっては理想的な住処になっていかない。その辺りを配慮しつつ、努力していきたい」など、柔軟に対応する旨の発言もあった。
各委員からは「住民を巻き込む」ことには概ね賛成するものの、「まずは、スプリンクラー設備を準備することが先決」「現実に夜間訓練ができるのか」「個人情報をどうするのか」など、さまざまな課題が提起された。さらに、「運営推進会議がどのくらい行われているのか。約50%が1〜5回となっているが、1回、2回の具体的な数が知りたい」という指摘もあり、運営推進会議すら開催の少ない施設で、果たして地域住民を巻き込むことができるのか、「現実は厳しい」という思いがうかがえた。
出席した各委員の主な意見は以下の通り。
●勝田登志子委員(認知症の人と家族の会副代表理事)
巻き込むことは賛成。現実、火災訓練がされているか。ほとんどなされていないのではないか。また、夜間訓練はされていない。場所が山の中のような場所の場合、地域との連絡ができない。そこから対策を立てなくてはならない。古民家利用の場合、構造が複雑でスプリンクラーでも役に立つのかどうか。避難できる家まで運ぶ訓練をやらなければ実際に役立たない。
●石川良一委員(全国市長会介護保険対策特別委員会委員長)
当然の課題。個人情報という観点から、地域の人との入所者の情報の共有をどうするか。障害者施設でも同じ。なかなか取り組めないのが現実。認定施設では、やり取りできていない自治体もある。地域力が試されている。国の対策を検討してほしい。
●川合秀治委員(全国老人保健施設協会会長)
火災が起きて認知症の人がパニックになった場合、誘導できるのか。1ユニットの職員で何ができるか。避難訓練とは何を指しているのか。法令さえ作ればいいではだめ。
●木村隆次委員(日本薬剤師会常務理事・日本介護支援専門員協会会長)
スプリンクラーが先。水道直結方式のスプリンクラーもあるが、消防の規制は厳しい。国と消防が話し合っていく必要がある。
●高智英太郎委員(健康保険組合連合会理事)
外から音が聞こえない建物など、近所の人がわからない場合もある。公立中高生、青少年の啓蒙、活用を考えてはどうか。
――傍聴レポート2 につづく
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