東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二准教授らの研究グループは、脳回路の中の記憶にかかわるニューロンで、興奮性シグナルが増強することが、記憶痕跡の実態であることを証明したと発表した。
一度つくられた記憶は、その後ノンレム睡眠時に脳内で再生されることが知られている。しかし、どのような形で記憶痕跡が脳回路に埋め込まれ、脳がどのようにしてその記憶痕跡を再び取り出し再生するかは、いまだに知られていなかった。
池谷准教授らは、記憶にかかわったニューロンを、そうでないニューロンとは区別できる特殊な遺伝子改変マウスの標本を用いて、記憶に関わったニューロンが優先的に活動しやすくなることで記憶の再生が起こることを示した。これまで、脳回路ではニューロンの興奮(アクセル)と抑制(ブレーキ)は広くバランスが取れていることが常識だったが、記憶にかかわったニューロンは抑制性シグナルに打ち勝つほどの大きな興奮性シグナルを受け取ることで、記憶を再生させることが明らかになった。
本研究成果により、脳が極めて精細な興奮性調節に基づいて記憶を再生するという画期的な発見がもたらされ、記憶のメカニズムの解明に向けた大きな研究の進展が得られた。これは、脳が記憶を再生する仕組みに関するデカルト以来350年の謎を解決したのみならず、今後、認知症など記憶ができない疾患ではどのような問題が生じているのか、統合失調症、うつ病など、記憶の変調を伴う疾患において、興奮・抑制のバランスがどのように変化しているかを観察していく新たなアプローチが、精神神経疾患の病態に有益な解釈をもたらすと期待される。
◎東京大学
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