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＜予防に期待＞アルツハイマー病から脳を守るたんぱく質を発見――大阪大学

大阪大学は、2月13日、アルツハイマー病から脳を守る細胞内のたんぱく質を発見したと発表した。

大阪大学蛋白質研究所 高木淳一教授のグループとドイツのマックスデルブリュック分子医学研究所とが共同で行った研究によるもので、sorLA（ソーラ）という脳内の膜タンパク質が、アルツハイマー病などの神経変性疾患発症の原因と考えられているAβペプチド（アミロイドを形成するものの一種）の蓄積を防ぎ、アルツハイマー病にかかるリスクを軽減する役割を持つことが明らかになったという。

研究成果の概要は、以下のとおり。

■アルツハイマー病発症の原因と考えられているアミロイドペプチド（Aβ）

我々の脳内では加齢にともなって様々な「神経毒性」をもつ物質が蓄積し、その毒性によって死滅する神経細胞が多くなると脳の機能が減退し、認知症などの症状がでることになる。アルツハイマー病ではとくに、アミロイドβ（Aβ）と呼ばれるペプチドが長い年月をかけて凝集して脳内に特徴的な「老人斑」と呼ばれる構造体をつくり、その毒性によって神経細胞が死滅すると考えられている。

Aβは正常なタンパク質が切断されて生じるいわば「ゴミ」のようなもので、だれでも持っているだが、なにかの理由でこの切断が多くなったり、切断されたAβが凝集しやすい性質をもっているとアルツハイマー病を発症しやすいことが知られている。アルツハイマー病の予防や治療には、この切断を制御したり、生じたAβが凝集しないようにすることが有効だと考えられ、世界中でそのような方法の開発にしのぎが削られているが、未だにそのような方法や薬は見つかっていない。

■「掃除屋」タンパク質sorLAとは？

アルツハイマー病の患者の遺伝子を調べると、発症していない人に比べていくつかの遺伝子にわずかの違いが見つかることがある。sorLA（神経ニューロンに存在する膜タンパク質で、コレステロールの細胞内への取り込みに関与するリポタンパク質受容体と近縁の膜タンパク質）の遺伝子にもそのような違いが見つかっており、また実際に患者の脳においてsorLAの量が健常人より少ないことも報告され、このタンパク質とアルツハイマー病発症のリスクに関連があることが示唆されていたが、sorLAがどのようにアルツハイマー病発症やその重篤化に関わるのかは不明だ。

高木淳一教授らは、このsorLAタンパク質の立体構造を調べる過程で、偶然このタンパク質がAβを結合する性質があることを発見。そこで、ドイツのベルリンにあるマックスデルブリュック分医学研究所のThomas Willnow教授らと共同で、sorLAを通常よりたくさん持つように人工的に改変したマウスを用い、sorLAが増えると脳内に生じるAβの量（健常者でも一定の量存在する）が75%も減少することを明らかにした。sorLAを培養細胞に発現させると、外から加えたAβを細胞が中に取り込んで、分解していく様子もとらえられた。

アルツハイマー病の中には、遺伝的要因により比較的早い時期に発症する「若年性（家族性）アルツハイマー病」があり、いくつかの患者の家系で遺伝子が調べられているが、ある家族で見つかった点突然変異がsorLAタンパク質の中にあることが昨年報告された。この点突然変異をもつsorLAを細胞に発現させると、先ほどのAβを取り込み分解する活性がまったくないことがわかった。この結果は、この患者においてsorLAの機能が失われた結果アルツハイマー病を早期に発症することになったこと、つまり、sorLAは我々の脳が常に直面しているアルツハイマー病の危険に対して保護効果をもつことを示唆している。

■研究成果の意義

この成果は我々の脳に神経変性疾患に対する自衛策がもともと備わっていることを示しただけでなく、アルツハイマー病の治療と予防のための新しい「作用点」を発見したものとして注目される。

今後、何らかの方法で脳内のsorLAを増やすことができれば、アルツハイマー病になるリスクを低減することができる可能性がある。また、sorLAが持つ「掃除屋」としての機能の詳細な解明を通して、アルツハイマー病を含む神経変性疾患の発症の初期メカニズムの理解がさらに進むことも期待される。

なお、研究成果は米科学誌「Science Translational Medicine」に2月12日付けで掲載された。

◎大阪大学
www.osaka-u.ac.jp/ja‎