独立行政法人医薬基盤研究所(NIBIO)は、1月6日、微量の血液でアルツハイマー病を診断するマーカーの定量法を確立したと発表した。
研究は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムと厚生労働科学研究費補助事業として、同研究所と大阪大学大学院医学系研究科とのグループによって行われたもの。
次世代質量分析計を用いることで、血液中に超微量に存在するアルツハイマー病の診断マーカーとして有用と考えられる物質の検出・定量に成功したことは、早期診断・早期治療につながる可能性があるという。
今後ますます増加が予測されるアルツハイマー病の早期予防の手段としても期待がもたれている。
研究成果は、昨年12月27日、米科学誌Journal of Proteome Research電子版に掲載された。
【研究の概要】
アルツハイマー病は老化に関連して起こる代表的な神経変性疾患。現在の日本人の平均寿命では、アルツイマー病などの認知症を発症する割合は20%程度だが、実際はその過半数の人の脳内でアルツハイマー型の病理過程が相当に進んでいると考えられている。また、現在の寿命が5歳延びると認知症を発症する人の割合は劇的に増え、50%程度になると推定されている。従って認知症の発症を予測し、早期に予防的措置をとる必要がある。
アルツハイマー病は脳内にAβ42というペプチドが蓄積することが引き金になり発症すると考えられているが、現在のところその蓄積に先立つ産生量の増加を測定する方法はない(蓄積はアミロイドPETで見ることができる)。これまで、髄液中のAβ42量がアルツハイマー病の診断マーカーとして有用ではないかという研究がなされてきましたが、早期診断には限界があることがわかってきていた。
これまで研究グループでは、Aβ42と同じ仕組みで脳内で産生されるAPL1β28を発見し、その髄液中の量がアルツハイマー病の診断に有用であることを見出してきた。このAPL1β28の増減は脳内Aβ42の増減を正確に反映しており、Aβ42とは異なり、アルツハイマー病脳内での病理過程の進行を正確に測定できる。しかし、髄液検査は非常に侵襲性が高く、簡便にできる検査ではないため、非侵襲的かつ簡便に測定できる血液検査法の開発が必要となる。さらに、血液中のAPL1β28は非常に微量であり、これまで髄液検査で用いられてきたELISA法では血液中のAPL1β28は検出できなかった。
今回研究グループは、次世代質量分析計を用いて、血液中に超微量に存在するAPL1β28の検出・定量に成功した。アルツハイマー病のような長期間にわたって潜行性に進行し、しかも発症率が特別に高い疾患では、血液を用いた検査で病気がどれほど発症に近づいているか調べることが出来れば早期診断・早期治療につながる。同研究成果は、今後増え続けるであろうアルツハイマー病の発症を予測し、早期に予防するための有効な手段になり得るものと期待できる。
◎独立行政法人医薬基盤研究所
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