6月30日に開催された特定施設事業者連絡協議会の平成22年度第1回定例研究会。後半の講演者は医療機器を装着した利用者を受け入れる介護付有料老人ホームを経営している株式会社誠心代表取締役社長、吉松泰子氏が登壇した。吉松氏は20年看護師として福岡県内の病院に勤務した後、自ら介護付有料老人ホームや在宅ホスピスを積極的に行う介護共同住宅を設立した。
吉松氏は「医療・特定施設との連携〜特定施設での終末医療」をテーマに講演を行ったが、その根本理念は先に講演した橋本氏同様、「特定施設での医療は、あくまで生活援助の一環としての医療」だと語った。なかでも、ターミナル期にある方の医療は、死を寿命として捉え、寿命を全うするための医療の提供が必要だとした。
吉松氏が運営する在宅ホスピス「プランダムール」(福岡県太宰府市)には、気管切開、胃ろう、鼻腔経管栄養、IVHなど、常に管理が必要な入居者が生活しており、連携訪問看護ステーションから看護師が配置され、24時間のケアを行っている。
講演の中で、「プランダムール」での生活の様子を描いたドキュメンタリーが紹介され、そこには、まさに今、息を引き取ろうとしている女性の様子が描かれていた。看護師や看護師が周囲を取り囲むなか、次第に呼吸が弱くなっていく女性に、彼女が大好きだったアイスクリームを口元にはこぶ。全員で声を掛け合い、かけつけた初老の息子もずっと手を握っているシーンが映し出される。それは悲しみに支配された光景ではなく、無事旅立ってほしいという崇高な願いに満ちた笑顔があふれた光景だった。
やがて医師が呼ばれ、死亡を確認。ご遺体は職員の手で浴室へ運ばれ、頭からつま先まできれいに洗い上げられていた。湯かんの儀を兼ねたこうした行為は、病院や家庭では不可能なため、家族も感謝して「おふくろの裸を見たのは何十年ぶりだ……」とつぶやきながら一緒に洗い清める家族の印象的だった。
こうした映像を撮影できるのも、利用者と施設側の信頼関係があればこそ。この場所が、病院で管理されるのとは違う「自分らしい」暮らしが可能で、また家族と自分自身の願いをかなえる「尊厳ある看取り」ができることを知っているから、なんら隠すことなく、こうした映像を披露することができるのだと吉松氏は語る。
特定施設はライバルである高専賃の多様化などにより、大きな変革を迫られるであろうが、吉松氏は、「終末医療を提供できるか否か」が、今後、特定施設に対する社会への要望ではないかと述べた。