大阪市立大学は、12月12日、大学大学院看護学研究科の佐々木八千代准教授、同医学研究科の大藤さとこ講師らのグループがC型慢性肝疾患患者の肝機能改善に対するコーヒー摂取の効果を確認したと発表した。
日本において、肝臓がんの主要な原因はC型肝炎ウイルス感染であり、肝臓がんの約80%はC型慢性肝疾患患者から生じている。また、C型肝炎ウイルスの感染者は、日本全体で約200万人にのぼると推定される。
臨床現場では、肝機能の指標として血清中のアラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)値を用いているが、ALT値が高い患者では肝臓がんを発症するリスクが高いと言われている。そのため、C型肝炎ウイルス感染者では、肝臓がんの発症を予防するためにもALT値をコントロールすることが重要となっている。
これまで、検診受診者を対象とした調査で、コーヒー摂取のALT値低下に対する効果が示唆されてきたが、C型慢性肝疾患患者においても同様の効果があるかどうかはわかっておらず、今回の研究で、C型慢性肝疾患患者に限定してもコーヒー摂取のALT安定化に対する効果があることが明らかになった。
研究におけるコーヒーとは、コーヒーフィルターを通して作ったドリップコーヒーで、カフェインの入っていないデカフェコーヒーでは効果が見られなかった。
同研究の成果は 12月11日米オンライン科学誌PLOS ONEに掲載された。
■研究の内容
C型慢性肝疾患患者を対象に調査開始時のコーヒー摂取状況が、その後1年間のALT値にどのような影響を及ぼすかを検討した。
調査開始時にALT値が正常値(≤45 IU/L) ※であった者のうち、「1日1杯以上、ドリップコーヒーを摂取」していた者では、全く摂取していなかった者と比べて「1年後のALT値も正常を維持」している者が多く(89% vs. 76%)、他要因で調整後のオッズ比は2.74だった。
一方、調査開始時のALT値が高値を示した者でも、「1日1杯以上、ドリップコーヒーを摂取」している者では、「1年後のALT値が20IU/L以上減少」している者が多くなっていた(37% vs. 22%, 調整オッズ比=3.79)。
しかし、デカフェコーヒーを摂取していた者は、摂取していなかった者と比べると、「1年後のALT値も正常を維持」している者が少なく (60% vs. 82%, 調整オッズ比=0.26)、また調査開始時のALT値が高値の者で「1年後のALT値が20IU/L以上減少」した者はいなかった。
以上より、C型慢性肝疾患患者において、1日1杯以上のドリップコーヒー摂取は、その後1年間のALT値の安定化に有益な効果があることが示唆された。
*オッズ比:ある要因への曝露がある場合の結果指標のオッズが、曝露がない場合の結果指標のオッズに比べて、何倍高いかを示す。この研究でのオッズ比は、コーヒーを飲む者は飲まない者に比べて、1年後の「正常ALTの維持」や「ALT20IU/L以上減少」が何倍起きやすいかを示す。
■期待される効果
現在、C型慢性肝疾患の主な治療として、C型肝炎ウイルスの排除を目的としたインターフェロン治療が行われているが、副作用などの問題によりインターフェロン治 療が行えない人もいる。そのような患者に対し、ALT値の安定化に有用な生活習慣の方法として推奨することができる。
その結果、肝硬変への移行を減らす、あるいは肝臓がんの発生を予防する効果も期待でき、患者のQOL(生活の質)を改善し、医療費の削減にも効果があると考えられる。
■今後の展開
ALT値の安定化に対するコーヒー摂取の効果について、より長期的な調査を行う。
インターフェロン治療中の患者において、ウイルス排除効果に対するコーヒー摂取の影響を検討、また、コーヒー摂取の長期効果(肝硬変への移行を予防、肝臓がんの発生を予防)を検討する。
◎大阪市立大学
http://www.osaka-cu.ac.jp/ja