東京大学は、11月10日、老人性難聴の発症のしくみを解明したと発表した。
老人性難聴とは両耳にほぼ対称に生じる、老化に伴う進行的な感音性難聴。老化により生じる難聴は、内耳の末梢感覚器である蝸牛の有毛細胞障害、あるいは蝸牛の申請細胞の障害が主な原因であると考えられている。
また、老化による聴力低下をもたらす因子としては、職場騒音、薬剤、高脂肪食、ストレス、遺伝子などが考えられている。しかし、老人性難聴の分子レベルでの発症機構は不明で、有効な予防法や治療法はなかった。
しかし今回、東大大学院農学生命科学研究科の染谷慎一特任助教らの研究によって、老人性難聴の発症には、細胞レベルでのアポトーシス(あらかじめプログラムされた細胞死)を促進する遺伝子(Bak遺伝子)が必須であることが解明された。
この遺伝子の活性化を誘導し、老人性難聴を引き起こすのは、細胞レベルでの酸化ストレス障害の増加であるため、研究ではマウスを使ってアルファリポ酸、コエンザイムQ10を摂取させ、酸化ストレスを低下させたところ、老人性難聴を引き起こす遺伝子の発現が抑制されていることがわかった。
アルファリポ酸やコエンザイム10は、抗酸化作用があるとして、さまざまな健康食品や基礎化粧品などにも採用されているが、今後、内耳の老化機構の解明、高齢者の健康維持、そしてヒト老人性難聴の予防法・治療法の確立に役立つことが期待される。
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