(公財)東京都医学総合研究所は、8月22日、目的ある行動を達成するために大脳基底核が前頭葉と連携するための基本原理を発見したと発表した。
脳の深部にある大脳基底核は前頭葉と密接にやり取りをしていることが知られており、この連携が行動を支える様々な局面において重要な役割を果たすと考えられてきた。動作の実行における大脳基底核と前頭葉の運動野の連携については、パーキンソン病にともなう運動症状を調べることを中心に理解が進んでいる。一方で、大脳基底核はヒトで発達した前頭連合野ともやり取りをしており、高次脳機能(※2)への関与が示唆されていたが、その実態は不明だった。
そこで本研究では、認知行動課題を行っているサルの大脳基底核と前頭連合野の神経活動を比較することによって、この回路の機能解明に取組んだ。その結果、大脳基底核が目的決定や動作選択の節目を捉えて情報を処理し、前頭連合野が処理結果を保持するという特徴が明らかとなった。
これは、大脳基底核と前頭連合野が連携することによって初めて「決定や選択」と「結果の保持」という高次脳機能の二大要素が達成されることを示している。こうした基本原理は、大脳基底核と前頭連合野の連携の解明、ならびに、機能不全による高次脳機能障害(※3)の病態解明の重要な手がかりとなる。
■研究の背景
大脳基底核は脳の深部にあり、行動制御において中心的な役割を果たす前頭葉と複数のループ回路を形成している(図1)。
前頭葉の後方部には一次運動野があり運動実行において主要な役割を果たす。一次運動野が大脳基底核と形成するループ回路(運動系ループ、図1の青→)の動作実行における機能については理解が進んできている。これに対して、前頭葉の前方部にある前頭連合野(前頭前野、高次運動野)も大脳基底核とループ回路(連合系ループ、図1のオレンジ→)を形成している。この連合系ループは高次脳機能において重要な役割を果たすことが示唆される。しかし、その連携の実態は不明だった。
■今後の展望
今回の新知見を踏まえて研究を発展させることにより、ヒトで高度に発達した高次脳機能の神経基盤を前頭連合野だけでなく、大脳基底核による情報処理も含めたかたちで、より深く理解できるようになる。さらに、今回の新知見は、大脳基底核の疾患による高次脳機能障害の病態を解明するための重要な手がかりとなる。
特に、誘発された高次脳機能障害が、情報処理の節目における障害として捉えられる可能性を示唆している。
■問い合わせ:(公財)東京都医学総合研究所前頭葉機能プロジェクト
電話 03-6834-2373
(公財)東京都医学総合研究所事務局研究推進課
電話 03-5316-3109
【用語説明】
※1 パーキンソン病
大脳基底核のドーパミン不足による疾患であり、安静時振戦、筋固縮、寡動、姿勢保持反射障害などの運動症状を主とする。
※2 高次脳機能
記憶、注意、意思決定、行動計画とその遂行などの認知的な脳情報処理過程のこと。前頭連合野はその機能の中心的な役割を担っている。
※3 高次脳機能障害
脳血管障害や交通事故による脳損傷、低酸素脳症や脳炎などによって脳に機能脱落が生じ、高次脳機能が障害されること。また、障害により日常生活が制限されること。感覚機能や運動機能の障害とは区別される。記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害などがある。