東京大学大学院総合文化研究科は7月22日、マウスを用いたアンチセンス法の治療により、筋強直性ジストロフィーの症状が改善したと発表した。
筋強直性ジストロフィー1型は、10万人に5人程度に見られる日本で最多の成人筋疾患ではあるが、現在までに本症を抜本的に治療する薬はない。本症の特徴は、その疾患の名前にも由来している筋強直で、収縮した筋肉が弛緩するときに時間がかかってしまう症状である。例えば、筋強直によって手をグッと握った後にパッと広げるのに指が曲がったままでなかなか手が伸びないようなことがある。これは、ドアノブやつり革から手を離すのに時間がかかってしまうなど日常生活の困難さを招く。
また、筋肉だけでなく、全身へと様々な症状が及ぶ特徴がある。具体的な症状としては、筋強直や進行性の筋萎縮、心伝導障害、白内障、耐糖能異常、そして精神遅滞などが挙げられる。
現在までに、筋強直性ジストロフィー1型における筋強直は、塩化物イオンチャネル遺伝子(注1)CLCN1のスプライシング(注2)の異常により生じること、スプライシング異常の改善はエキソン・スキップ(注3)という方法が最良であることがわかっていた。しかし、エキソン・スキップには、特定の核酸配列を筋細胞に届ける必要があり、効果的なデリバリー法が見つかっていなかった。
今回、東京大学大学院総合文化研究科の古戎道典(博士課程3年)と石浦章一教授らは、CLCN1のスプライシングを正常化する効率の良いアンチセンス核酸(注4)を同定し、それをバブルリポソームと超音波を用いて筋細胞に導入する新しい治療法を確立した。この方法をマウスに用いると、CLCN1のスプライシングが正常化し、マウスの筋強直症状が改善した。今後は、開発したデリバリー法のヒト細胞での効果を確認することで、筋強直性ジストロフィー1型の筋強直症状を緩和する薬剤の開発へと繋がることが期待される。
■用語解説:
(注1)塩化物イオンチャネル遺伝子(CLCN1)
筋細胞膜上にあるイオンチャネルをコードする遺伝子で、主に塩化物イオンの透過に関わっている。このチャネルの機能が低下することで、筋肉が収縮しやすくなり、筋強直を引き起こす。
(注2)スプライシング
遺伝子からタンパク質が作られる過程で、DNAから転写されたmRNA前駆体のうち、タンパク質に翻訳されないmRNA前駆体の領域(イントロン)を除き、タンパク質に翻訳される領域(エキソン)のみをつなげる反応。
(注3)エキソン・スキップ
特定のエキソンを読み飛ばすことを指す。これにより、成熟mRNAに特定のエキソンが含まれないように制御することができる。なお、同じ遺伝子でもエキソンとイントロンの配置は、動物種によって異なる。
(注4)アンチセンス核酸
DNAやRNAなど生体内の核酸と相補的な核酸配列をもち、DNAやRNAの特定の配列に結合する人工的に設計された核酸のこと。DNAやRNAの特定の配列に結合することで、DNAやRNAの働きを阻害する。
◎東京大学
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