広島大学大学院、名古屋市立大学大学院らで組織する共同研究グループは、6月18日、歯の喪失(奥歯の噛み合わせの喪失)がアルツハイマー病の症状を悪化させることを動物実験で解明したと発表した。
これまで、歯の喪失がアルツハイマー病のリスクを高めることは疫学調査により知られていたが、そのメカニズムまでは明らかにされなかった。今回それが世界で初めて、動物実験で学習・機能面と神経病理学の側面から証明できたことになる。
実験は、遺伝子操作によってアルツハイマー病を発症するようにしたマウス17匹が用意され、左右の奥歯を抜いたマウス7匹と、残したマウス10匹で比較が行われた。その結果、奥歯を残したマウスはすべてが4カ月後も学習内容を記憶していたが、抜いたマウスでは10匹中6匹の能力が低下していた。
アルツハイマー病の症状が進む原因として脳内にアミロイドβタンパクが蓄積することがわかっているが、実験ではアミロイドβの蓄積した面積には差が見られなかった。その一方で、記憶を担う海馬の神経細胞数は、抜いたマウスだけが減少していた。さらに詳しく、抜いたマウスを調べた結果、記憶を維持していた4匹と、維持しなかった6匹を比べたところ、 アミロイドβの蓄積量と海馬の神経細胞の数に差は見られなかったものの、6匹は神経細胞の大きさ(面積)が小さくなっていた。
このように、いずれの実験でもアミロイドβの蓄積量に差がなかったことから、「アミロイドβの増加がアルツハイマー病を進行させるという従来の説とは違う仕組みがあるのではないか」という見解が示された。
今後の波及効果としては、義歯での補綴(ほてつ)も含め、「歯の喪失を防げば、認知症の発症予防や進行抑制につながることが期待される」としている。
◎広島大学
http://www.hiroshima-u.ac.jp/index-j.html