群馬大学、東京大学などの共同研究グループは、うつ症状を伴う精神疾患の鑑別を診断する指標として、光トポグラフィ―検査がどれだけ有効かを検証する大規模調査を実施し、「高い判別率で得られる」とする成果を発表した。
精神疾患の診断は、従来、患者本人や家族からの報告と、患者の言動の観察や病状の変化などの医師の見立てから行われてきたため、正確な診断や治療の遅れを来たすことがあった。中でも、「うつ症状」は診断が難しく、大うつ病性障害と診断された患者が、その後の治療の過程で双極性障害や統合失調症だとわかる場合も少なくないと言う。そうしたことから、客観的な「バイオマーカー」の開発が期待されており、血液検査を筆頭にさまざまな試みが行われてきた。「神経画像測定」もその1つで、中でも、近赤外光を当てて脳の血液量の変化を測定できる光トポグラフィーを用いた検査は期待が高く、2009年には「うつ症状の鑑別診断補助」として精神医療分野で唯一の先進医療に承認されている。
この検査は、明るい部屋で自然な座った姿勢で、短時間に検査を受けることができることから患者への負担が少なく、病状や身体的条件による制約が少ないのを特徴としており、その有用性の評価が日本全国で続いている。ただし、これまでの評価は、数十例程度のグループ間の比較検討に留まっていた。そこで今回の研究では、神経画像検査を個別に鑑別診断補助として用いる場合、個人レベルでどの程度の精度が得られるのかを大規模な多施設研究で明らかにすることを目的に試みられた。
検証は、群馬大学、東京大学、国立精神神経医療研究センターなど、全国の7施設で行われ、うつ症状のある患者673名と健常者1,007名について行われた。「うつ症状」を伴う精神疾患としては、大うつ病性障害、双極性障害、統合失調症があり、一人一人をどの程度正確に鑑別できるかを、光トポグラフィー検査による脳機能計測の指標から検討した。その結果、大うつ病性障害と臨床診断された患者のうち74.6%が、双極性障害もしくは統合失調症と臨床診断された患者のうち85.5%を正確に鑑別できた。しかも、1施設のみでも、残りの6施設でも同等の結果が得られたことから、一般化への可能性の高さが確認できた。
研究グループは今後、自律神経系などの身体状況、脳解剖学的な個人差を考慮するなど、光トポグラフィ―検査の精度をさらに高め、実用化を進めていく。
◎東京大学
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