総務省は、4月、超高齢社会がもたらす課題の解決にICT(情報通信技術)を活用することを検討する「ICT超高齢社会構想会議」の基本提言を公表した。
世界に先駆けて超高齢社会を迎えた日本では、経済活動や社会保障制度、国民生活、地域コミュニティのあり方について従来の政策手法では対応できない課題に直面している。
総務省では、超高齢社会がもたらす課題を解決し、新たな社会モデルの確立に向けたICT利活用の推進方策を検討するための会議を開催し、8つからなる基本提言を取りまとめた。その中から高齢者の医療・介護、生活についてのビジョンとそれぞれのICT利活用の提言を紹介する。
■目指すべき超高齢社会のビジョン~高齢者の医療・介護・生活
国民が安心して地域で暮らすことができる社会を実現するためには、それぞれの高齢者が置かれている状況に配慮するとともに、病気になっても地域で質の高い医療・介護サービスを受けられる環境整備を進める必要がある。
その際には、医療費・介護費の増大、地域における医師の不足や偏在、医療・介護従事者の負担増といった課題を乗り越えていくことが必要で、関係者間の連携・協力を円滑かつ効率的に実現し、地域の活力を高めるICTを積極的に活用していくことは必須である。
■提言「国民のライフスタイルに適応したICTを活用した健康モデル(予防)の確立」
生活習慣病などの発症・重症化を予防することで健康寿命を延ばすには、国民のライフスタイルに適応した健康維持・増進の仕組みを確立していくことが必要である。しかし、現時点では、無関心層まで取り込んだ健康づくりの仕組みは確立されていない。
ICTは、国民の健康や生活に関する情報を適切に集積・管理、分析して疾病管理を行うなど、健康に対する国民の気づきを持たせ、行動につなげ、継続させるための有効なツールになると期待される。会議では、先進的な自治体が運用する遠隔健康相談システムや民間企業のICTを活用した健康増進プロジェクトの取り組みが紹介され、住民や社員の健康状態の向上や医療費の削減効果が確認されている。
このような取り組みをさらに広げるため、保険者としての地方自治体や企業が主体となるICTシステムや健診データ等などを活用した健康モデルなどを確立・普及していくための施策展開を推進すべきである。
・今後の具体的プロジェクト:ICT健康モデル(予防)の確立
健康寿命の延伸を実現するICTシステムや健診データなどを活用した健康モデル(予防)の確立に向け、地方自治体や企業が主体となった大規模な社会実証を実施するとともに、健康ポイントなどのインセンティブ措置のあり方についても検討し、それらの成果を踏まえた普及を促進する。
■提言「医療情報連携基盤の全国展開と在宅医療・介護のチーム連携を支えるICTシステムの確立」
医療・介護・健康分野のデータを本人や医療従事者などの関係者間で共有・活用するための基礎的インフラとなる医療情報連携基盤を構築する。
医療情報連携基盤は、継続的かつエビデンスに基づく医療・介護サービスの提供、本人の健康状態に対する理解促進、重複検査の防止などによる医療費の抑制、救急医療時の迅速な対応や災害時のバックアップ機能といった効果が期待される。また、これらのデータの2次利用により自治体の健康施策の立案や疫学研究等に役立てることも期待される。
また、多職種の専門家がチームを組んで患者を24時間体制で支える在宅医療・介護の現場では、ICTを活用し、情報を共有することが質の高いサービスの提供のため不可欠であり、このようなシステムの標準化に向けた取り組みを推進すべきである。
具体的には、医療・介護間で共有すべき情報の特定、介護分野におけるデータやシステムの標準化、在宅におけるモバイル端末やセンサー技術等の活用方策の明確化を図るための取り組みなどを推進する。
・今後の具体的プロジェクト:医療情報連携基盤の全国展開
医療・介護・健康分野のデータを、本人や医療従事者などの関係者間で共有・活用するための基礎的インフラとなる医療情報連携基盤の整備及び全国展開を行う。また、在宅医療・介護のチーム連携を支えるICTシステムの確立に向けた実証と実用化を踏まえた全国展開を行う。
■提言「高齢者の安心・安全な日常生活を支える、ライフサポートビジネスの創出」
買物、配食、見守りなど高齢者を支えるさまざまな生活支援のサービス(「ライフサポートビジネス」)が登場し、将来的には大きな市場創出が期待されている。しかし、現状では、これらのサービスが個別に提供されていたり、存在が知られていないなど、必ずしも高齢者の生活の質を豊かにするサービス市場として成熟していない。
分断している個々のサービスや高齢者のニーズとサービスをスムーズにつなぎ、医療・介護サービスにとどまらず、民間事業者のサービスが効率的に連携してそれぞれが最適のタイミングで高齢者に提供されるような仕組みを実現するためには、ICTの有効活用が不可欠である。
また、高齢者やその家族に対して適切なサポートやアドバイスを行うコーディネイターの役割も重要であり、新たな「ライフサポートビジネス」への国民の信頼が醸成されるような仕組みについても検討を行う必要がある。
例として、ライフライン事業者が市町村の福祉部局等とICTを活用して適切に連携することで高齢者の安心・安全のための取り組みにつながることも期待される。
さらに、東日本大震災で多くの高齢者や障がい者が災害弱者となった経験を踏まえ、災害等の緊急時にも各種のサービスの連携が有効に機能し、高齢者や障がい者の安心・安全が確保されることが重要である。
・今後の具体的プロジェクト:「ライフサポートビジネス」の創出
各地域の超高齢社会が抱える課題解決のため、高齢者等利用者のニーズや実証の成果を踏まえ、行政・企業・地域住民などが有機的に連携した「ライフサポートビジネス」(買物、配食、見守りやオンデマンド交通など)やコミュニティビジネスなど、地域経済が循環し、持続可能なモデルの構築を推進する。
◎総務省
http://www.soumu.go.jp/
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