厚生労働省の医療系検討会のひとつに、「救急医療体制等のあり方に関する検討会」がある。この第3回会合の席上、公益社団法人日本精神科病院協会の千葉 潜氏(医療法人青仁会理事長)が、提出した資料「救急医療体制の整備における精神科救急との連携について」のなかで、認知症高齢者と救急医療について言及している。
今回は、救急医療センターに搬送される高齢者のうち、認知症の患者についての問題点を千葉氏の資料より紹介する。
資料のなかで、千葉氏は、仙台市立病院救命救急センターでの例を紹介。
平成19年2月の同病院のER受診患者1,101人のうち、65歳以上は214人(19%)。このうち「認知症の可能性あり」と判断された患者は86人(65歳以上の40%)にも達した。
この86人の「認知症の可能性がある」高齢者のERでの診断は、肺炎がもっとも多く、次いで脳卒中、打撲・挫創、心肺停止、消化管出血と続く。搬送時、すでに心肺停止状態の患者も少なからずいる(6%)一方で、4分の1は軽傷での搬送だった。
こうした認知症高齢者のER外来後の転帰は、46人(53%)が入院、35人(41%)が外来(通院)だったが、入院した46人のうち、治療のための入院(医療的入院)は90%、1割の9人は退院後の行先がないなどでの社会的入院となった。
このような実例から、千葉氏は、救急における認知症高齢者の問題を以下のようにまとめた。
1)救急の高齢者の40%以上が認知症あるいは認知症の疑いがある。
2)認知症(疑い含む)高齢者の約50%が入院治療へと移行。
3)高齢者単独世帯は急増、高齢夫婦のみも増えており、2035年には65歳以上高齢者の40%が単独世帯、30%が老老世帯になる見込み。
4)入院加療中に認知症症状の出現も多い。
5)認知症疾患医療センターなど専門機関との連携づくりが必要。
※4)に関しては、多くの高齢者家族やケアマネジャーなども経験していると察せられるが、転倒・骨折などで入院している間に、寝ているだけの環境などが原因で、急に認知症になってしまうことは、救急受診に限らず頻出する例といえる。救急医療センターでは認知症のケアができない場合がほとんどであり、こうした現実からも、合併症への対応など多職種・他部門連携が容易な5)認知症疾患医療センターの整備・普及が望まれる。
◎厚生労働省
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