居宅のケアマネジャーには今ひとつ、実態が見えにくい小規模多機能型居宅介護。5月11日、東京・港区で、このサービスの現状を詳しく紹介する講演会が行われた(主催:ホスピタリティ☆プラネット)。講師を務めたのは、川崎市で小規模多機能型居宅介護「ひつじ雲」を運営し、全国小規模多機能型居宅介護連絡協議会理事も務める柴田範子氏。現場での具体的な話をもとに、地域での暮らしを支えるこのサービスの持つ力について熱く語った。2回に分けて報告する。
■単品サービスでは支えきれない人のために
小規模多機能型居宅介護(以下、小規模多機能)は、開始当初、「通い」と「訪問」と「泊まり」を自由に組合せて利用できるサービス、とアナウンスされた。このため、今も「小規模多機能=デイ+ホームヘルプ+ショート」と考える人が多い、と柴田氏。しかし、このイメージは誤りだと明言する。
小規模多機能は在宅での生活を24時間365日支えるサービス。そう柴田氏は言う。訪問介護、デイサービスなど、これまでの単品サービスを単に組み合わせているだけではない。本人の希望を聞き取り、柔軟に、かつ根拠を持ってケアプランに位置づけ、対応していくことこそがこのサービスの持つ力。全国の小規模多機能を訪れ、実態を見て回った柴田氏によれば、岡山では新幹線を利用して墓参りに同行した例、広島では通ってくるのを嫌がる利用者の自宅に職員が泊まり込んだ例もあったとのこと。小規模多機能は単品サービスでは支えきれない、施設適応とも言える中・重度の人たちを支えることができるサービスだ、と柴田氏はいう。
■支えるケアが介護家族に自信を付ける
自らが運営する小規模多機能「ひつじ雲」での支援の一例として、柴田氏は主介護者が娘から、以前、虐待傾向のあった息子に変わることになった利用者を挙げた。虐待の再燃が心配されるケースである。行政は、この利用者の安全確保を第一に考え、精神科病院に入院させることを提案した。これを聞いた柴田氏は待ったをかける。なぜ在宅生活の継続のために、虐待が起こらないよう見守ろうとしないのか、と。
柴田氏はスタッフと、小規模多機能としてどうすればこの母子を支えられるかを検討。結果、毎日、「泊まり」を利用してもらい、日中、自宅に戻ってもらうこととした。そして1日数回、スタッフが自宅で過ごす利用者を訪問。日中の生活を見守ることで虐待を防ぐことができたという。
柴田氏は利用者を支える手応えについて、様々な例を挙げて語った。たとえば、老老介護など家族の介護負担が大きい利用者を担当したとき。どうしても朝の訪問、日中の訪問、そして就寝時の訪問など、まさに24時間を支えるケアが必要になってくる。こうしたケアは事業者にとっても負担が大きい。しかし小規模多機能がそれをきちんと提供していくと、介護する家族も次第に「覚悟」ができてくる、と柴田氏。それは、最後まで在宅介護を続けていこうという覚悟。あるいは、これなら在宅で介護を続けていける、という自信だとも言える。
■小規模多機能を育てるのは周囲の力
柴田氏からは、また、毎日の記録用紙やカンファレンス記録用紙、そして柴田氏が使用している小規模多機能のケアプランである「ライフサポートプラン」についての紹介もあった。どれも、本人、家族・介護者、地域というそれぞれの目で見た情報や、それぞれの希望、いつ・誰が・どのようにして具体化するかなどを分けて書き込めるようになっているのが特徴だ。
また、ケアプランのプロセスについては、これまでの「アセスメント→プラン作成と実行→カンファレンス→ケアの実践→モニタリング」という流れを逆転。「ケアの実践→モニタリング→カンファレンス→アセスメント→プラン作成と実行」というプロセスを提示した。利用者の心身の状態や本人、家族の希望は関わって初めてわかることもあり、最初からプランを立てるのが難しい場合もあるからだ。
「ひつじ雲」では、本人が小規模多機能の利用に消極的な時などは、まずはお風呂に入りに来てみたら、と誘い、そこから利用につなげていくこともある。こうしたケースは、当然、なかなか介護報酬が得られない。しかし、将来つながれることに希望を持ち、時間をかけて関係を作ることが大切だと、柴田氏の方針は明快だ。
「ひつじ雲」は、川崎市で運営中の小規模多機能では最も古い事業所だが、今も収支はトントン。小規模多機能はどこも収支状況が厳しいこともあり、残念ながら「ひつじ雲」のように柔軟に、そして懐深く対応できている事業所は決して多くない。しかし柴田氏は、「だからこそ、周囲からどんどん事業所に要望を伝え、小規模多機能を育てていってほしい」と語る。
――次回は、居宅のケアマネジャーとの連携など、質疑応答を中心に紹介する。
◎特定非営利法人 楽 ひつじ雲 (小規模多機能型居宅介護)
http://www.npo-raku.jp/hitsuzi_top.htm