東京都介護支援専門員研究協議会(CMAT)は、3月30日、東京都内で第3回研修会「認知症高齢者とケアマネジメント」を開催した。認知症疾患や栄養管理についての4つのプログラムの中から、特発性正常圧水頭症についての講演について報告する。
講師は、特発性正常圧水頭症の啓発活動に力を入れているジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社のコッドマン&CMF事業部の佐々木博信氏が務めた。
■ケアマネに特発性正常圧水頭症の知識が求められる理由
まず、ケアマネジャーが特発性正常圧水頭症につていて知っておくべき理由について、以下のように述べられた。
・高齢化率21%以上の超高齢化社会に突入した日本において高齢者対策、中でも認知症対策は重要。団塊の世代が75歳になる2025年までにさまざまな方策が求められるが、特発性正常圧水頭症への対応もそのひとつ。
・特発性正常圧水頭症は、改善するタイプの認知症。高齢者にとって危険な転倒の原因疾患ともなる。この病気には歩行障害・認知症・尿失禁の3大症状があり、治療することで患者の介護度の改善、介護者の負担減につながる可能性がある。さらに介護保険費や医療費の削減にも期待できる。
・3年前にアルツハイマー症と診断された要介護3の人が転倒し、救急病院に搬送されたところ、検査で特発性正常圧水頭症と診断。手術後は症状がなくなり、その後自立して暮らしている――「このような例が全国的に増えています。この人の3年は何だったのでしょうか」。
■特発性正常圧水頭症とはどのような病気か――受診につなげるために
特発性正常圧水頭症は、特発性(原因が不明)で、脳の脳室に髄液がたまり、脳の組織を圧迫することで起きる病気。進行すると歩行障害・認知症・尿失禁の3大症状が出る。この病気の気づきにつながるポイントについて、次のように説明された。
・3つの症状でも特徴的なのが歩行障害で、ほぼ100%近く出現し、最初に現われることが多い。そのあとに認知症・歩行障害が合併する。「症状が出る順番がこの病気の大きなポイントであることを覚えてください」。
・歩行障害は、小刻みでがに股気味の「開脚歩行」になるのが特徴で、不安定で転びやすくなる。とくにUターンする時にふらつきやすい。歩行障害というとパーキンソン病を想起するが、「パーキンソン病の場合は、体の真ん中で小刻みに歩く感じになるので、開脚歩行がポイントです」。
・認知症の症状は、一日中ぼーっとしていて自発性が低下するような態度が見られる。物忘れも強い。また、飲み込みの意志がなくなることで摂食障害を引き起こす。
・尿失禁は、まず頻尿として現れることが多いが、歩行障害のためにトイレに間に合わないことでの失禁も見らる。
3つの症状は高齢者にとってよく見られる症状で、それがこの病気を見過ごすことにもなっているという。「全体を見ることがポイントです。また、利用者さんが『歩くのがこわい』と口にしたり、頻繁に転びそうになっているのを見聞きして、『ひょっとして』と思うことはとても大切です」。
特発性正常圧水頭症はアルツハイマー症と診断されていることがあるが、アルツハイマー病は足腰が弱らないので徘徊などの問題行動がある。しかし、「歩行障害がある特発性正常圧水頭症は徘徊はほぼ不可能なのです」。
■特発性正常圧水頭症の診断と治療--介護度改善の期待も
特発性正常圧水頭症の疑いがある場合、すみやかに受診する。診断はCTとMRIの画像診断が有効で、CTで約8割が診断されているという。治療は手術で行うが、事前に髄液を抜いて症状が改善するかどうかを調べるタップテストを行う。「テストの前後で歩くのにかかる時間が10%以上短くなっていれば特発性正常圧水頭症であり、手術の有効性が期待できます」。
手術は、たまっている髄液をカテーテルで腹腔などへ誘導する「髄液シャント術」というもので、入院期間は10日から2週間くらい。手術を受けている人は75歳前後が中心だが、条件さえ整えば90歳代でも手術は可能だという。
「手術後の回復では、歩行障害は9割、認知症・尿失禁は7・8割がよくなっています。また、長期予後では、5年後に72%あるいは91%効果が持続しているという報告があります。100症例を集めて術後の介護度の変化を調べたデータでは自立が増え、13%が完全自立になったことがわかりました」
■「認知症」と言われたときの対応が大切
疫学調査で、日本の高齢者の少なくても1.1%は特発性正常圧水頭症の疑いがあることが判明しており、「人数にして31万人以上で、東京都では2万8800人以上になります。しかし、昨年の東京都のシャント術は500例未満に過ぎず、特発性正常圧水頭症が見逃されていると言えるでしょう」。
また、認知症と特発性正常圧水頭症との関連を知ることはとても大切だという。
「認知症は病名ではなく、症状です。その原因となる病気の代表格はアルツハイマー病(56%)で、特発性正常圧水頭症は5%と言われていますから、認知症の20人に1人は特発性正常圧水頭症が原因ということになります。ケアマネジャー1人が担当する利用者は26名くらいですから、担当する利用者の中に1人はいる計算です。ぜひ気づいて、この病気を見つけ出してほしい」
そのために、注目したいのが「転倒」で、通常高齢者は前に転ぶケースが多く、手首を折ったり顔を怪我したりする。特発性正常圧水頭症の場合は8割が横かうしろに倒れ、大腿骨骨折や腰椎圧迫骨折をひきおこす。高齢者が転倒・骨折した場合、転び方や骨折の箇所に注目することがこの病気の発見に有効だという。
また、利用者が認知症と診断された時の対応についてもアドバイスがなされた。
「医師に『認知症です、もう高齢なので治らないですよ』と言われたら、『どんな病気の認知症ですか?』と聞き返してください。このひとことでその人のこれから5年が決まると言ってもいいほどです。そして、専門医を紹介してもらいます。家族の気づきも大切ですが、客観的に見れるという意味でケアマネジャーの存在は大きいものです。気づきをぜひ医療につなげてください」
◎東京都介護支援専門員研究協議会(CMAT)
http://cmat.jp/
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