理化学研究所と日本医科大学は、自然免疫細胞(※1)で作られ、糖鎖(※2)を認識するタンパク質の有無が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪の起こりやすさに関与することを発見した。
COPDは「肺の生活習慣病」とも呼ばれ、呼吸困難を伴う慢性の呼吸器疾患。2008年の世界保健機関(WHO)の統計では全世界において死因の第4位を占め、将来的な患者数の増加が予想されている。COPDは、細菌やウイルス感染などが引き金となって息切れや痰などの症状が急激に悪化(増悪)すると、最悪の場合は死につながるが、現況ではステロイド剤の投与以外に有効な治療法がないため、新たな治療法の開発が望まれている。
共同研究グループは、今回のタンパク質がCOPD増悪に関わる細菌と接着すること、このタンパク質をコードする遺伝子の型により、このタンパク質を持つ人と持たない人がいることに着目し、遺伝子の型がCOPD患者の「増悪しやすさ」に影響するかどうかを検討した。具体的には、135人のCOPD患者の遺伝子型を解析し、1年間の増悪の回数を調べた。
その結果、このタンパク質を持たない遺伝子型の患者は、持つ遺伝子型の患者に比べて、年平均の増悪頻度が4分の1以下であることを突き止めた。このことより、このタンパク質を持つ患者は炎症性の反応が強く、過剰な炎症が起こるため、増悪の頻度が高くなるというメカニズムを提唱。
患者の遺伝子型を調べて増悪を起こしやすい人と起こしにくい人を特定することにより、医療の個別化(オーダーメイド医療)が実現する。今後、このタンパク質を起点とする一連の免疫細胞の活性化を抑制することにより、COPD増悪の新たな治療法開発につながると期待される。
※1 自然免疫細胞
「病原体などが共通に持つ構造パターンを認識して、異物の排除や免疫系の活性化に関わる細胞」のこと。顆粒
球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球、マクロファージ、樹状細胞などが含まれる。これに対し、B細胞やT細胞のように「特定の抗原に特化した認識タンパク質を持ち、その抗原に特異的に反応する細胞」を獲得免疫細胞と呼ぶ。自然免疫細胞と獲得免疫細胞は相互に情報を交換することにより、免疫系を制御している。
※2 糖鎖
核酸、タンパク質と並び「第三の生命鎖」と呼ばれる生体分子。細胞膜の表面に存在し、それぞれの細胞に特徴的な構造を外界に示すことで、自分がどんな細胞か、どんな状態にあるかを周囲の細胞に伝えている。白血球が炎症の起こっている場所に移動したり、ウイルスや細菌などの異物を排除したりする際の目印に糖鎖を使うなど、糖鎖は多様な生命現象に関わっている。
◎理化学研究所
http://www.riken.go.jp/
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