(公財)東京都医学総合研究所の鈴掛雅美研究員、長谷川成人参事研究員らは、レビー小体型認知症、パーキンソン病の原因タンパク質を普通のマウスの脳内に接種すると、マウスの正常なタンパク質が異常に変換され、その異常タンパク病変が時間経過に伴って広がることを、世界で初めて実証した。
この結果は、普通のマウスに3カ月で病態を再現する画期的モデルで、認知症の進行機序の解明、さらには治療薬開発につながることが期待される。
■研究の背景
アルツハイマー病やレビー小体型認知症、パーキンソン病など、脳の細胞が徐々に変性、死滅していく変性性認知症は、その症状が時間経過に伴って徐々に進行することが大きな特徴。治療を考える上でこの「進行性」の機序を解明することは大変重要だが、残念なことに、この「進行性」に関してはこれまであまり議論されてこなかった。
長谷川参事研究員らは、細胞内に生じた異常タンパク質が正常タンパク質を異常に変換しながら、細胞間を伝わって広がることで病気が進行するという新しい考え方を提唱し、その検証を行ってきた。そして今回、レビー小体型認知症の原因である異常αシヌクレインをマウスの脳内に接種するとマウス脳内の正常αシヌクレインが異常に変換され、その病変が広がることが実証された。
■研究の概要
大腸菌に作らせたαシヌクレインを試験管の中で線維化して異常構造にし、それを野生型マウスの脳内に注入したところ、3カ月でマウス脳内にレビー小体と良く似た異常αシヌクレイン蓄積が認められ、それが時間経過とともに脳全体に広がること(図)が判明した。また、この病変はマウス脳内の正常αシヌクレインが異常な構造に変換されて蓄積したことが証明された。この結果から、微量の異常αシヌクレインが脳内に存在するだけで、正常なαシヌクレインが異常な構造に変換され、それが急速に増幅されることがわかった。異常αシヌクレインが増幅され、脳内に広がることでレビー小体型認知症や、孤発性パーキンソン病が進行すると考えられる。
■今後の展望
本研究で確立したマウスモデルはレビー小体型認知症をはじめとする新規治療法開発に応用することができ、これまでの治療薬とは作用機序が異なる、病気の進行を止める薬剤の開発が期待される。
◎東京都医学総合研究所
http://www.igakuken.or.jp/
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