12月12日開催の老人介護の全国研修会「オムツ外し学会」で、保健師でNPO「メイアイヘルプユー」理事の鳥海房枝氏が「介護現場のターミナルケア」について講演し、「施設は看取りの準備教育をする場」と語った。
鳥海氏は、東京都北区の特別養護老人ホームの副施設長を務めたときのエピソードを紹介。施設が平成10年にオープンした翌年、初めて入居者の看取りをした。その際、鳥海氏は「亡くなったことを隠さずに知らせよう」と思いつき、館内放送でアナウンスし、死後の処置は家族にも入ってもらい、正面玄関から見送ったという。
家ではみんなで見送るのだから、施設でもそうすべきだろうと思う反面、死を身近に感じることで利用者はどんな反応を示すのか心配もしたが、入居者から聞かれたのは「これで先々の心配がなくなった」「最期までここにいられて、あんな風に見送ってもられるんだ」という安堵の声だった。
鳥海氏は、「どういう終わり方ができるのか、本人に見えることで安心できる」「死を隠さない施設運営をすべき」と強調した。
隠さずに見せるということは、入居者本人だけではなく、家族に対しても同じだ。鳥海氏は、意図的に次のようなことを行ってきたという。
・最期が近づいてきていることを家族がイメージできるように、食事会を開き、家族と利用者が一緒に食べる場を設け、利用者の食べ方、食べられる量、嚥下状態を知ってもらう。
・判子を押してもらった書類は、必ずコピーを渡す
・亡くなっていく過程でたどることの多いプロセスを事前に説明する
・死後の処置は、看護師、介護職、家族で一緒に行う
→そのためには、隠したくなる遺体にしない(「遺体はケアの通信簿」と鳥海氏は言う)
・亡くなった後、荷物などをまとめて渡す時には、立ち話ではなく、座ってお茶を飲みながら、一緒に振り返る時間を設ける
さらに鳥海氏が強調したのは、ターミナルケアのあり方について家族に判断を委ねる際は、「『代わりに決める』という代理ではなく、『本人だったら何を望むか』を代弁してもらう」ということだった。
「自己決定であれば、どんな選択をしても『本当に良かったのか?』という迷いが残る。でも、お父さん、お母さんの代弁であれば、決めた後に救われる」と鳥海氏。
そして、どんな決断をするにしても家族は揺れるのだから、「迷いますよね」と、揺れる家族に寄り添うことの大切さを訴えた。
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