東京都医学総合研究所は、東京歯科大学など15の他機関との共同研究で、「鎮痛剤の効きやすさ」と「鎮痛剤に対する依存」の両方に影響する遺伝子配列の差異を見出したと発表した。
この発見により、鎮痛薬の適量や重度の依存になるリスクを遺伝子検査によって予め知ることができるようになり、効果的、効率的な医療の実現に繋がると期待される。 なお、この研究は平成21年度から実施されている、東京都からの運営費補助金による「がん・認知症対策」特別研究の一環として実施されたもの。
■研究の背景:
鎮痛薬の効き方(鎮痛薬感受性)には大きな個人差があり、痛みの治療をする上で大きな問題となっている。世界保健機関(WHO)によるがん性疼痛治療指針の五原則の一つに、「患者ごとに適量を求めること」が挙げられていることからも、鎮痛薬感受性が個々人で異なり、患者ごとの鎮痛薬感受性を把握することが疼痛治療の現場においてきわめて重要であることがうかがえる。今までは、患者自身の鎮痛薬感受性は、時間、コスト、労力をかけた試行錯誤によって調べられてきた。
また、依存の重症化にも大きな個人差があり、同じ依存性物質を同程度摂取しても、深刻な依存症に陥る人と、そうでない人がいて、治療や予防を行う上でも問題となっている。現在は、深刻な依存に陥るリスクがある人を見分けられないので、このような人たちはリスクを知らずに酒やたばこなど合法な依存性物質を摂取して深刻な依存症になったり、非合法の依存性薬物にまで手を出してしまったりする可能性があり、大きな社会問題を引き起こす結果となっている。
■研究の概要:
こうした個人差が発生する原因の一つに、遺伝的要因(各個人の遺伝子配列の違い)が挙げられる。近年の遺伝子解析技術の進歩により、鎮痛薬感受性の個人差に寄与し得る遺伝的要因を特定することが可能になった。今回、研究グループは、画一的で強い痛みを生じる下顎形成外科手術に注目し、その術後疼痛管理に必要な鎮痛薬量と患者の遺伝子多型との関連を調べ、ある遺伝子多型が手術後24時間における鎮痛薬の必要量と有意に関連していることを見出した。
次に、この遺伝子多型と鎮痛薬必要量との間に見出された関連性は、別の術式である開腹手術における術後疼痛においても再現されるなど、鎮痛や依存の個別化医療を実施する上で、最有力な遺伝子多型であると考えられる。
この研究から、事前に鎮痛薬必要投与量を予測して早期からの適切な疼痛治療を行ったり、事前に依存症が重症化しやすいかどうかを予測して予防や治療に役立てたりするなど、個々人の体質に合わせた疼痛治療及び依存症治療の発展が加速すると考えられる。
■今後の展望:
今後、今回同定した遺伝子多型に関する遺伝子検査が医療上有用であるかどうかの検証を行っていく。そして、がん性疼痛患者を対象としたテーラーメイド疼痛治療の実施も目指す。
■問い合わせ:
(公財)東京都医学総合研究所依存性薬物プロジェクト 電話 03-6834-2379
(公財)東京都医学総合研究所事務局研究推進課 電話 03-5316-3109
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