東京都健康長寿医療センターでは、11月17日、板橋区医師会との共催で、板橋区立文化会館大ホールにて「中高年のための健康講座 地域で支える認知症」を開催した。
講演の後半、「認知症 板橋区医師会もサポートします」「認知症の治療」をお届けする。
■行政と医師会が行う認知症支援策
板橋区医師会副会長・水野重樹氏による講演「認知症 板橋区医師会もサポートします」では、板橋区や板橋区医師会による取り組みについて報告された。
まず、認知症対策の前提となる板橋区の高齢化率や認知症患者数の推移などが示され、中でも印象的だったのが、認知症高齢者が認定調査を受けた時の居場所についての調査。それによると在宅が6割弱で、「地域に密着した認知症のケアが必要と言われているが、実際に自宅にいる人が多いということです」。また、介護給付を受ける高齢者は認知症の人が多い(板橋区の場合、要介護1で約54%、要介護5で約88%)ということもデータで示された。
板橋区が実施する認知症高齢者支援策では、認定を受けていない60~80歳代の人が対象の「能力アップ教室」や、専門医と行政が訪問して行う高齢者認知症専門相談などが紹介され、相談の件数が増えていることが言及された。
板橋区医師会の取り組みの中心はもの忘れ相談医制度で、2011年度は92人のもの忘れ相談医が登録しており、相談事業や講師の派遣、日常診療での相談などを行っている。日常診療においては、「高齢の患者さんが前回の診察の時のことを忘れていたり、同じやりとりを繰り返したりすると、大丈夫かな?と注意するなど、認知症を念頭に置いて接している」という水野医師の例が紹介された。
また、板橋区の認知症高齢者援体制について、医療・介護・地域の連携を認知症疾患医療センターがバックアップするなど、区町村単位から見た地域連携の構図についても説明があった。
■高齢期の認知症を代表するアルツハイマーを理解する
最後に、「認知症の治療」のテーマで東京都健康長寿医療センター理事長の松下正明氏が講演を行った。松下氏は、医師になった約50年前から認知症の研究・治療に携わり、2009年にセンター理事長に就任。「『地域で支える認知症』という視点の講座で、『認知症とは何か』ということを改めて考えてもらえる講演にしたい」と語り始めた。
講演はアルツハイマー型認知症の治療に限定したものとなり、松下氏は、その理由として「アルツハイマーは患者の数の多さも含めて認知症の中心的な存在であり、アルツハイマーのことがわかれば、高齢期における認知症はどういうものかを理解できると思います。脳血管性の場合は体の病気で、二次的に脳に変化が出て認知症になるが、アルツハイマーは、脳そのものの病気です。この違いは意外と理解されていません」と語った。
アルツハイマー型認知症の原因は今のところ解明されていない。
「言えるのは加齢とパラレルであるということ。脳の老化現象と関係があるとも言われていますが、では、老化現象とは何かという問題があります」。
脳内にアミロイドがたまる、海馬が縮むなど、アルツハイマーの基本的な所見は、普通の加齢でも見られる。異なるのは普通の加齢ではなだらかに出現し、一定以上は進まないのに、アルツハイマーの場合はどんどん進行し、閾値(いきち)を超えてしまうということ。
「なだらかなものがアルツハイマーではなぜ急に進行するのか。もともと人間の脳はそういう風になるもので、ある程度のところで制御されていたのが制御されなくなるからか。軽度認知障害の段階で診察すれば進行がなだらかになるのか。今後の解明が待たれます」
アルツハイマー病は何らかの原因で脳が病み、さまざまなファクターで神経細胞の働きに異常が起こり、認知症となる。
「現在、薬による治療法は、神経細胞に働きかける補充療法が中心です。病気の起こり方で言うと『下流』の治療のみで、そのため、進行をとどめる一時的な効果しかありません。病気がよくなるには、『なぜ脳が病むのか』という『上流』について研究が進み、治療できるようになることが必要です」。