東京都主催の在宅療養推進シンポジウム『在宅療養における病状変化在宅療養における病状変化と急変時の対応』、第二部では、「病状の変化」と「急変」時の対応について5人のシンポジストから提言があった。
梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司氏は、救急車を呼ぶことは、全力で救命する医療にシフトすることを容認することになるため、患者・家族が望む生き方・死に方は棚上げとなると話したうえで、不要な救急搬送を避けるためのポイントに言及。
具体的には、1)起こりうる急性疾患を予測、可能なら予防につなげる。2)介護職は救急車を呼ばずに在宅医(訪問看護師)を呼ぶ。3)在宅での急性期の治療限界を高める、といったことが重要であると提言した。
田園調布医師会立訪問看護ステーション所長宮近郁子氏は、91歳の男性患者(慢性心不全、低栄養)を在宅介護している息子の事例を紹介した。息子は、延命はしたくない、胃ろうや気管切開はしたくないと話していたにも関わらず、食事量が減少しスプーン一口程度を飲み込むのがやっとという状態になったとき、「明日病院を受診予定」と訪問看護師に話した。迷っている息子に、受診したら入院になることを説明。翌日、意識レベルが低下し反応なしの状態になり、その翌日早朝に永眠。
このような非ガンの後期高齢者の場合、どこからが終末期なのかの判断が難しく、病状が悪化しても入院すれば治ると本人も家族も思っているため、死を受容するのが難しいとしたうえで、本人・家族の意思を尊重し確認すること、価値観を押し付けてはいけない、他機関との連携調整、看取りへの準備が訪問看護師の役割であると述べた。
家族のための介護相談サロン「ソワニエグラン」代表の宮崎詩子氏は、90代の祖母を介護し、10カ月間、一切の医療ケアを受けることなく看取った経験から、終末期ケアは「家族の領域」であるとし、家族に求められるのは冷静にアセスメントする力であると述べた。在宅ケアで大切なことは、1)訪問看護師の滞在時間が病状に合わせて柔軟にプログラムできる体制、2)アセスメントの能力に応じた訪問看護師のレベル分け、3)ケアするための環境整備、4)家族が常に状況を把握できるためのサポート、の4つを提言した。
立川市北部東わかば地域包括支援センターの川野和也氏は、在宅療養をしている人を孤立させないためには、地域包括支援センターの任務として、地域ネットワークを構築することが重要だと述べ、活動事例を紹介した。
八王子市健康福祉部地域医療推進課の伊比洋司氏は、八王子市高齢者救急医療体制広域連絡会が作成した救急医療情報用紙を紹介した。救急隊、救急病院で必要な情報を簡潔に記入できる用紙となっている。特徴的なのは延命処置に関する項目である。できるだけ救命・延命をしてほしい。苦痛を和らげる処置なら希望する。なるべく自然な状態で見守ってほしい。その他の4つのいずれかにチェックを入れる方式となっている。
このような書式を、もっと広く共有できる体制が望まれる。
■関連記事
・看取りのプロセス、ケアマネジャーも把握すべき――東京都在宅療養推進シンポレポ(1)
・家族負担を心配、「在宅療養の実現は困難」——都調査結果
・過疎地など診療所不足の地域で、在宅療養支援病院を新設 厚労省