東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻特任助教のチェンバーズ・ジェームズ氏らは、絶滅危惧種に指定されているツシマヤマネコの脳において、アルツハイマー病に至る過程で特徴的に現われる変化(βアミロイドの沈着と神経原繊維変化)が高い確率で生じることを発見したことを発表した。
ツシマヤマネコは、長崎県対馬に生息する野生のネコで、国の天然記念物に指定されている。今回の研究は、病気などで死んだツシマヤマネコの解剖により判明した。
アルツハイマー病では、タンパク質の一種であるβアミロイドが蓄積されることにより、老人班と神経原繊維変化が生じ、神経細胞が脱落するため、認知症を発症すると考えられている。
しかし、従来の研究で報告されていたチーター、今回の研究で着目されたツシマヤマネコの脳では、老人班は形成されず、微細なβアミロイド沈着と神経原繊維変化が観察された。チーターとヤマネコは約670万年前に種として分岐し、現在では生息する地域はまったく異なる。そのため、これらの脳の老化に伴う変化は、チーターとヤマネコという2つの動物に進化発生する前に獲得された性質と考えられる。
アルツハイマー病患者の脳表面には、独特のシミができることが知られており、これまで、サルやイヌなどの動物で同様のシミが見つかっているが、今回のようにアミロイドの蓄積がはっきり確認できたのは初めて。今回の研究成果によって、アルツハイマー病の病態のメカニズム、病気の進化を解明する上で、ネコ科の動物の特殊性が示唆された。
◎東京大学
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