国民生活センターは、整体やマッサージ等、器具を使用しない手技による医業類似行為を受けて危害が発生したという相談が増加傾向にあるのを受けて、相談内容の情報提供をしている。
健康保持や疾病の予防・治療の目的で、マッサージ、指圧、整体、カイロプラクティックなど、施術者の手技による医業類似行為が広く利用されている。一方、全国消費生活情報ネットワーク・システムには、こうした医業類似行為を受けて危害が発生したという相談が2007年度以降の約5年間で825件寄せられており、件数は増加傾向にある。「手技による医業類似行為」のうち、あん摩マッサージ指圧や柔道整復については法的な資格制度があるが、整体やカイロプラクティック等については法的資格制度がないため、施術者の技術水準や施術方法等がばらばらであると指摘されている。
そこで国民生活センターは、医業類似行為を受けて危害が発生したという相談情報を分析し、情報提供を開始した。
■相談の概要:
・「整体」や「カイロプラクティック」など、法的な資格制度がない施術を受けて危害が発生したと明確に判別できる相談が少なくとも4割以上を占め、法的な資格制度に基づく施術の相談に比べて多いと考えられた。
・危害程度の回答があった640件のうち498件(77.8%)は危害発生後に医療機関を受診していた。
・危害部位は、腰部・臀部(でんぶ)や首、胸部・背部が多かった。
・危害内容は、神経・脊髄の損傷、骨折、擦過傷・挫傷・打撲傷の順で多かった。
■主な事例:
【事例1】 指圧・マッサージ店で全身の指圧マッサージを受けたところ肋軟骨(ろくなんこつ)を骨折した
全身の指圧マッサージを1時間半受けた。終了直前にブキッと音がして息をつけない痛みを感じたが、1〜2分で通常に戻ったので激痛があったことを言わず帰宅した。その夜発熱し痛みが出たため整形外科を受診したら肋軟骨骨折で加療に1カ月を要すると診断された。
【事例2】 遺伝性狭窄(きょうさく)症である旨を伝えてマッサージを受け、症状が悪化した
遺伝性狭窄症で腰痛に悩んでいた。腰痛不眠症改善という情報誌を見てマッサージを受けた。背骨の曲がったところを強く押され、腰や脚に激しい痛みと痺(しび)れ、引き攣(つ)れが起こった。脊椎専門の病院で治療を受けたところ、以前の状態に治るまでに3カ月程かかると言われた。
■問題点:
・全国消費生活情報ネットワーク・システムには、手技による医業類似行為を受けて危害が発生したという相談が5年間で825件寄せられており、そのうち少なくとも約4割は「整体」や「カイロプラクティック」など法的な資格制度がない施術の相談であった。
・消費者が施術所や施術者を選ぶ際に、施術所に国家資格であるあん摩マッサージ指圧師や柔道整復師などの有資格者がいるかどうかを見分けることは困難である。
・危害が発生した場合、因果関係を明らかにすることが困難なケースも多く、解決が難しい。
・施術所の広告、表示を調査したところ、法律上問題があると思われる広告や、消費者に誤認や過度な期待を与えるおそれがある広告がみられた。
■消費者へのアドバイス:
・手技による医業類似行為を受ける場合は、事前に情報収集を行い、自身の症状や希望に合った施術を選択した方が良い。また、手技による医業類似行為は身体に影響を及ぼすものであることを理解しておくこと。
・疾病を持つ場合は、手技による医業類似行為を受ける前に医師の診断、アドバイスを受けると良い。
・手技による医業類似行為を受けて重篤な身体症状が発生した場合は速やかに医療機関を受診すること。また、長期間または頻繁に手技による医業類似行為を受けても身体症状が改善されなかったり悪化するような場合も、医療機関を受診すると良い。
・危害等のトラブルが発生した場合は消費生活センターに情報提供すること。各地にある医療安全支援センターや保健所への情報提供も併せて行うと良い。また、解約・返金や補償を求める場合は、弁護士会等による法律相談を受けることもできる。
なお、国民生活センターは、法的資格制度がない手技による医業類似行為について、一定以上の安全性を担保するためのガイドライン等を作成するよう、関係機関に求めていくとしている。
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