厚生労働省は6月18日、今後の認知症施策の方向性について発表した。これは同省認知症施策検討プロジェクトチームが、過去10年間の認知症施策を再検証したうえで、今後目指すべき基本目標と、その実現のための施策の方向性について検討したもの。
今後目指すべき基本目標―「ケアの流れ」を変える―
「認知症の人は精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指す。
この実現のため、新たな視点に立脚した施策の導入を積極的に進めることにより、これまでの不適切な「ケアの流れ」を変え、むしろ逆の流れとする標準的な認知症ケアパス(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)を構築することを、基本目標とする。
この目標を実現するため、同省は今後、以下に挙げる7つの施策を展開する。
1)「標準的な認知症ケアパスの作成・普及」
認知症と疑われる症状が発生した場合に、いつ・どこで・どのような医療や介護サービスを受ければよいか理解できるよう、標準的な認知症ケアパスの作成と普及を促進する。
2)「早期診断・早期対応」
ここでは新たに「認知症初期集中支援チーム」を設置し、アセスメント、家族支援などの初期支援を包括的・集中的に行い、自立生活のサポートを行う事業をモデル的に実施する。この支援チームは「地域包括支援センター等」と明記されているが、ケアマネジャーが加わるかどうかは不明。概念図には一連の流れの最後のほうに「介護サービス必要時はケアマネジャー等へ助言」とある。
また、かかりつけ医の認知症対応力の向上、「身辺型認知症疾患医療センター」(かかりつけ医と連携し、そのバックアップを担う医療機関を整備し、早期の的確な診断、介護との連携を確保する)の整備、とある。
これにより、地域のかかりつけ医に相談しても「歳のせい」などといわれ、早期対応が遅れることが少なくなることが期待される。
3)「地域での生活を支える医療サービスの構築」
ここでは、「認知症の薬物治療に関するガイドライン」の策定や、一般病院での認知症の人の手術、処置等の実施の確保、精神科病院に入院が必要な状態像の明確化、精神科病院からの円滑な退院・在宅復帰の支援、一般病院・介護保険施設等での認知症対応力の向上が挙げられている。
4)地域での生活を支える介護サービスの構築
生活の部分を支える介護サービスは、介護保険と密接に関わる部分だが、この施策には次の3点が挙げられている。
・認知症にふさわしい介護サービスの整備
「グループホーム」「小規模多機能型居宅介護」などの地域密着型サービスの拡充を図る。
・認知症行動・心理症状が原因で在宅生活が困難となった場合の介護保険施設等での対応
・「グループホーム」の活用の推進
グループホームの知識・経験・人材等を生かして、在宅で生活する認知症の人やその家族への相談や支援を行うことを推進する。
5)地域での日常生活・家族の支援の強化
ここでは「認知症サポーターキャラバン」の継続的な実施、全国の市町村に認知症施策の推進役を担う「認知症地域支援推進員」を設置する、家族への視点を含めたサービス提供が行われるようにする、権利擁護の確保や市民後見人の育成とその活動支援を行うことが明記されている。
6)若年性認知症の特性に配慮し、支援のためのハンドブックを作成、配布するとともに、本人や関係者等が交流できる居場所づくりの設置等を促進する。
7)認知症の人への医療・介護を含む一体的な生活の支援として「認知症ライフサポートモデル」を策定、これらを踏まえ医療・介護サービスを担う人材を育成する。
新たに導入される事業として、2)に説明されている「認知症初期集中支援チーム」がある。これは地域包括支援センター等に設置され、チームでアセスメントや会議、検査・診察紹介から家族支援や電話相談まで行うもので、介護保険申請の如何に関わらず利用できる。