老人ホームに勤務する民俗学者が、入居する高齢者から聞き取った話をまとめた『驚きの介護民俗学』が医学書院から発行され、話題となっている。
著者は、『神、人を喰う』でサントリー学芸賞を受賞した気鋭の民俗学者、六車由実氏。勤めていた大学を辞め、故郷の老人ホームで働き始める。そこで出会った高齢者たちが語る、様々な記憶を「民俗学」としてまとめたのが本書だ。著者は、介護現場を指して「こんなにも民俗の宝庫」だったと驚きをもって語っている。
ただ一方で、「食事・排泄・入浴という三大介護に追われるだけで、利用者さんのそうした輝きの瞬間と掘り起こされた記憶を受け止める時間的・人員的余裕もノウハウもない」と、介護の現状を嘆く。彼女の言う、「民俗学」に無関心だった介護現場。ユニークな視点から現場をとらえたことで、日々出会う高齢者たちとの関わりが新鮮な魅力となって見えてくる、そんな一冊だ。
■書名:『驚きの介護民俗学』
■著者:六車由実
■目次:
はじめに
【第一章】 老人ホームは民俗学の宝庫
「テーマなき聞き書き」の喜び
老人ホームで出会った「忘れられた日本人」
女の生き方
【第二章】 カラダの記憶
身体に刻み込まれた記憶
トイレ介助が面白い
【第三章】 民俗学が認知症と出会う
とことんつきあい、とことん記録する
散りばめられた言葉を紡ぐ
同じ問いの繰り返し
幻覚と昔話
【第四章】 語りの森へ
「回想法ではない」と言わなければいけない訳
人生のターミナルケアとしての聞き書き
生きた証を継承する−『思い出の記』
喪失の語り−そして私も語りの樹海〈うみ〉に飲み込まれていく
【終章】「驚けない」現実と「驚き続ける」ことの意味
驚き続けること
驚きは利用者と対等に向き合うための始まりだ
おわりに
■定価2,100円(税込)
■仕様: A5判/240ページ
■発行:医学書院
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