東京都健康長寿医療センターは、4月6日、東日本大震災の都内在宅高齢者の被害状況の調査をまとめて発表した。
調査は昨年6月、東京都内の在宅高齢者向け介護サービスを手がける事業所(都内の地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションなど)1681カ所を対象に実施され、38%の639事業所から有効回答を得ている。
被害状況としては、「震災をきっかけに高齢者の健康状態が悪化したケースがあった」と回答した事業所が25.7%に上り、死亡に至った事例が8件、在宅生活を継続できなくなった事例が21件報告された。
具体的には、「食べることのできる食品(パン)が手に入らず衰弱した」など震災後の食料・日用品不足が健康悪化を招いた例が多かった。また、「停電に不安を抱き、認知症が進行した」など震災後の計画停電を原因に挙げた回答も目立った。そして、「地震後に屋外に出て避難した際に転倒して打撲したのをきっかけに体力が衰え始めた」「住宅が半壊して住めなくなり、グループホームに入居したことで不安が高まった」など直接被災して健康が悪化した例もあった。
災害に際して考慮するべき要因としては、抑うつ・不安、認知症、ADL低下、在宅医療機器の利用が挙げられた。抑うつ・不安、認知症では、パニックや周辺症状の悪化が見られ、ADL低下者では、エレベーターの停止や送迎が手配できないことなどにより、帰宅困難となりやすいことがわかった。また、在宅医療機器を利用している高齢者では、携帯ボンベの弁を開けるなど、非常時の対応が習熟できていないため、医療機器を使用できない例があることがわかった。
事業所の被害としては、電話の障害(43.5%)、職員出勤の支障(40.6%)、ガソリン等物資の不足(18.8%)などが確認された。それにもかかわらず、臨時の安否確認(74.3%)、家族への連絡(47.8%)、関係機関との連携(40.8%)、臨時のサービス提供(15.4%)など、高齢者の状況に合わせた対応がなされていた。
災害対応マニュアル作成については、事業所によってばらつきが大きく、地域包括は16.9%と低く、通所系事業所は71.6%と高いことがわかった。一方、住民の力を活用している事業所は全体の16.9%にとどまったが、地域の連携が災害対応への実行感を高めることがわかった。
調査結果を分析した今後への提言については、「元気な高齢者が災害をきっかけに要援護となることもあり、地域包括支援センターに介護を要しないものを含む地域の独居高齢者、高齢者世帯などの個人情報共有のための仕組みが必要」「通所系事業所を高齢者の一時的保護のための泊まり機能や物資の備蓄機能などを持つ災害拠点とすること」「在宅医療機器利用者への定期的な非常時の機器操作訓練が必要」「深刻な映像の反復視聴が過度の不安を誘発することへの配慮が必要」などを挙げている。
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