独立行政法人理化学研究所は、個人の気分をタッチパネルなどで簡単に入力できるシステム「KOKOROスケール」を開発した。これは、理研分子イメージング科学研究センターの細胞機能イメージング研究チームの片岡洋祐チームリーダーと大阪産業創造館の共同研究による成果。
「KOKOROスケール」は、安心感と不安感、ワクワク感とイライラ感などの気分尺度を横軸および縦軸にした4象限マトリックスで、それぞれの軸には中心点を「0」として「−100」から「100」までの目盛りが振られている。被験者は、数分ごとまたは数時間ごとにそのときの気分を示す位置に点を打ったり、さらに点と点の間の気分変化を直線または曲線で表現できる。
近年、疲労や抑うつ気分、意欲に関する脳科学研究が進展し、心理的な変化を定量的なデータとして扱う必要性が増している。しかし、従来の心理学調査票は、設問に対する記述や選択肢で回答していく方式のものが多く、数分ごと、数時間ごとに調査することが難しく、「こころの動き」の把握ができなかった。さらに調査票に自由に記述できる場合でも直観的な感覚をそのまま表記しづらく、言葉の選択肢(例 ない・ときどきある・よくある)で回答する場合も微妙な感覚の差を数値化できないため、数理学的統計計算に不向きであった。
今回開発された「KOKOROスケール」は、回答に選択肢や記述など言語を使用せず、直観的な感覚をスケール上に表現することができるため、微妙な感覚の差を簡単に数値化することが可能だ。
研究グループは、花王株式会社の協力のもと2011年2月8日から3月24日にかけて、「KOKOROスケール」を用いて東京在住の主婦(45〜55歳)7人の1日の気分変化を記録する予備調査を行った。3月11日に東日本大震災が発生したことに伴い、震災前後の連続した気分データを偶然取得した結果となり、データから震災発生後にこれまでにないほど大きな安心感の喪失と不安感の増大、さらにワクワク感の喪失とイライラ感の増大が引き起こされていたことが定量的に示された。また、そうした気分の落ち込みは震災発生直後をピークとし、その後徐々に回復したが、調査終了時(震災発生2週間後)でも、震災前のレベルまで回復していない時間帯があった。統計学的なデータ分析からは、これら被験者の気分が震災前のレベルにまで回復するには2週間から1カ月が必要であると予想され、実際に6月に行った追跡調査では、気分データはすべての時間帯において完全に震災前のレベルにまで回復していることが確認できた。
「KOKOROスケール」は、印刷用紙に書き込む方法のほか、タッチパネルでもデータ入力が可能で、1日のさらに詳細な気分変化や大規模集団の調査が可能。
今後、心理学や脳科学分野などでの学術調査、また商品の満足度評価やサービスの使用感などマーケティングツールとしての応用が期待される。