京都大学再生医科学研究所らの研究グループは、理化学研究所との共同研究により、ヒトのES細胞からドーパミン神経細胞を誘導し、この細胞をパーキンソン病モデルのカニクイザルの脳内に移植することによって、神経症状を改善させることに世界に先駆けて成功した。この成果は、ヒトES細胞を用いた細胞移植治療の可能性を裏付けるものとなる。
パーキンソン病は進行性の神経難病で、ドーパミン神経細胞が減ることで脳内のドーパミン量が減り、手足が震える、体がこわばって動きにくいなどの症状があらわれる。これまでの薬物や電極を用いた治療法では、いったん症状は改善できてもドーパミン神経細胞の減少を食い止めることはできなかった。そこで、細胞移植によって神経細胞を補い、新たな神経回路の形成を促して機能を再生させるという、より積極的な治療法に期待が寄せられており、ヒトES細胞やiPS細胞もその移植細胞の候補となってる。
これまで、マウスやヒトのES細胞から作製したドーパミン神経細胞は、パーキンソン病のラットモデルで症状改善効果が確認されているが、ヒトES細胞から誘導したドーパミン神経細胞の挙動が霊長類の脳で調べられたことはなかった。臨床応用を目指すためには霊長類のパーキンソン病モデルを用いて、ヒトES細胞から誘導したドーパミン神経細胞の有効性と安全性を厳しく検証する必要があった。
同研究室は同じ霊長類であるサルの脳内で細胞の増殖がどのようになるかを調べるために、あえて未分化ヒトES細胞が約35%混じった神経細胞をサル脳に移植した。細胞移植後、手足の震えや歩行状態などを点数にして12ヶ月間経過観察をしたところ、3ヶ月目から有意な症状改善が見られ、12ヶ月間持続した。またドーパミン前駆物質を用いたポジトロンCT(FDOPA-PET)において移植部位に一致して取り込み上昇がみられ、移植細胞がドーパミンを合成していることが確認できた。さらに脳切片の免疫染色によって、12ヶ月後においてもドーパミン神経細胞が多数生着していることが明らかとなった。
これにより、ヒトES細胞由来ドーパミン神経細胞の移植によって、カニクイザルパーキンソン病の神経症状が改善されることを世界で初めて明らかになった。ドーパミン神経細胞を多く含んだ細胞の移植では、移植片が増大しなくなったと同時に神経症状の改善がみられたという点がポイント。この成果はヒトES細胞を用いたパーキンソン病治療が可能になることを示唆している。おそらくヒトiPS細胞でも同様の効果が得られると考えられ、今後、より安全で効果的な移植を行うためには、ドーパミン神経細胞を純化する技術の開発が必要であると思われる。
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