講座の後半は、同センター精神科副部長古田光氏による講演「こうして防ごう・付き合おう もの忘れの病気」が行われ、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の診断方法や予防法、そしてもっとも大切と思われる認知症との付き合いについての話があった。「治る認知症」の早期発見・治療につながる検査の必要性も述べられ、認知症について知らない人はもちろん、知っている人も改めて理解を深められる講演となった。
■加齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れ
認知症は、加齢によって増える疾患で、65〜69歳では2%だが、85歳以上では3人に1人が認知症になる。アルツハイマー型に代表される認知症には根本的な治療法はなく、認知症になったら付き合っていくしかない。テレビなどで「認知症が治る」と見聞きすると、治る薬と紹介されているのがてんかんの薬ということがある。てんかんは、もの忘れの症状がある疾患だが、認知症とは別のものだ。
高齢者に多い「もの忘れ」は、認知症が原因のものとそうではないものがある。昔のことはよく覚えていても最近のことを忘れる、曜日や時間の感覚が悪くなる、「あれ・これ」などの指示代名詞が多くなる……などさまざまな症状でも、加齢によるもの忘れは「行為の細部を忘れる」が、認知症のもの忘れは「行為そのものを忘れる」。アルツハイマー型認知症の場合、記憶が保たれる時間が短くなるのが特徴だ。
症状で認知症と間違えやすいケースについても知っておきたい。
・廃用性の変化。脳は使わないと衰えるもの。ひとり暮らしで人との交流がなく、単調な生活をしている人は、認知症を疑われる言動を見せることがあるが、刺激すると脳が働き、改善する。
・うつ。うつ状態で気持ちが落ち込むと脳の働きが弱り、認知症のような症状を見せることがある。うつ病の認知症の症状は、かつては「治る認知症」と言われていたが、現在ではうつは認知症のリスクファクターとなることがわかっているので、注意が必要。
・軽い意識障害によるせん妄状態。何かのきっかけで意識障害を起こすと、ちぐはぐな言動をして認知症と間違えられやすい。意識障害は急に起こるのに対し、認知症は徐々に進行するという違いがある。
認知症の症状には、中核症状と周辺症状がある。脳の力が落ちたことによるもの忘れや認知障害なので、これらを「中核症状」という。怒りなど感情の表出、妄想、徘徊などの「周辺症状」は、力の衰えた脳で対応しようとするために起きる。周辺症状は誰にでもあるわけではなく、早いうちに認知症を自覚した外は周辺症状が出にくいという調査結果もある。
■認知症の検査で重要なのは、もの忘れ検査・血液検査・頭部CT
認知症の検査はさまざまなものがあるが、必ず受けたいのは、もの忘れ検査・血液検査・頭部CTの3つ。もの忘れ検査は、質問形式のスクリーニングによるもの。血液検査では、認知症の症状を起こしている原因がわかり、特発性正常圧水頭症などの「治る認知症」を見つけることができる。「この症状はアルツハイマーだろう」と決めつけて受診を遅らせた結果、認知症以外の疾患の治療が遅れるのは問題。「治る認知症と治らない認知症」を見分けるためにも、早めに検査を受けてほしい。頭部CTでは、脳の萎縮の状態を知ることができる。CTでは診断が曖昧な場合は、MRI検査で詳しく調べるほか、脳の血流の検査で診断をより確実にすることも可能。ここまでの検査はすべて保険が適用される。
検査には、ほかにも遺伝子検査・PET検査などがあるが、どの方法でも100%正確な診断は難しい。診断にこだわらず、状態に合わせた治療や対応をするのが適切である。
■認知症の予防は40代から
アルツハイマー型認知症は、脳の中に異常なたんぱく質がたまり、脳細胞が死んでいくために発症すると言われている。認知症になる前から脳の変化は始まっているので、早いうちから予防に努めたい。さまざまな研究で予防の効果が証明されているのは、定期的な運動をする、人づきあいや社会的な参加をする、短時間の昼寝をする、高血圧と高コレステロール値をコントロールする、魚など不飽和脂肪酸を積極的に摂るなど。認知症予防は40代から始めると効果が高いと言われている。
■非薬物治療と薬物治療
アルツハイマー型認知症は進行性なので、症状を緩和して、よりよい生活を目指すのが治療の基本となる。その中心が、非薬物療法で、認知症予防に役立つ適度な運動や人との交流が治療にもなる。デイケアを活用するのがおすすすめだ。
薬物治療では、4つの薬があるが、いずれも根本的な治療薬ではなく、症状の進行を遅らせるものとなる。4つのうち3つは、コリンエステラーゼ阻害薬3種類で、作用が少しずつ異なる。もうひとつのメマンチンは、コリンエステラーゼ阻害薬と一緒に使用し、中等度以上のアルツハイマ―型認知症に効果があると言われている。
■認知症とよりよく付き合うために
怒りなど爆発的な感情、妄想、徘徊などの周辺症状(BPSD)は、弱った脳による反応が原因なので、まわりの人が工夫し、反応する要素を減らすことで予防できる。大切なのは、患者の感情を尊重すること。記憶や認知が低下しても、怒りや不安、喜びなどの感情は記憶されるので、よい感情をもたせてあげることが患者の安定につながる。
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