薬のリスクを受けやすい高齢者は、量や種類、管理に注意――第120回老年学公開講座(2)

東京都健康長寿医療センターは、2月2日、板橋区立文化会館にて第120回老年学公開講座「健康のための匙加減〜クスリはリスク」を開催した。3人目の講師の東京大学大学院医学系研究科准教授の秋下雅弘氏は、老年病専門医。「安全に薬を飲む秘訣〜過ぎたるは及ばざるがごとし〜」のタイトルのもと、高齢者に焦点をあてた薬の副作用と、薬を服用する上での具体的な注意点が語られた。講演の主な内容をご紹介する。

高齢者は薬の「効きすぎ」が問題

東大病院老年科の入院患者を対象に薬の副作用の発生度を調べたところ、中高年では5%なのが75歳以上では15%で、年をとるにつれて副作用が多くなることがわかった。また、高齢者の薬のトラブルは、厳密には副作用よりも主作用に基づくいわゆる「効きすぎ」のケースが多いのが特徴。「効きすぎ」は、高齢になると肝機能や腎機能が低下し、薬を飲んだ後の反応が変わってしまうことなどが原因で起きる。

また、高齢者はさまざまな病気を持ち、複数の薬を飲んでいることが多いため、薬の相互作用が起きるほか、誤ってたくさん飲んだり、または飲み忘れたりということも起きやすい。高齢者で、救急で入院する患者の5%は薬が原因だ。副作用が起きると若い人に比べて重症になりやすく、その影響も多臓器にわたる。とくに中枢神経や循環器系に障害をもたらすことがあり、結果的に入院が長引く原因にもなる。

■「長く飲んでいた薬だから大丈夫」とは限らない

薬は消化管で吸収され、肝臓で代謝された後、全身に回って腎臓で排泄されるが、高齢になると肝臓の機能が低下するため、薬の代謝がうまくいかず、解毒作用が働きにくくなる。また、高齢者は体内の水分量の低下し、筋肉より脂肪が多いため、薬物中毒になりやすい要素がある。さらに、腎臓の働きは年齢とともに低下するため、排泄されにくくなることも薬の影響を受けやすい原因だ。

不整脈の心拍数を調節する薬「ジゴキシン」を服用し、「ふらつきがある」として受診した81歳の女性を例にとると、検査の結果、腎臓の働きを示す数値が悪くなり、薬の排泄が落ちたために中毒になったことがわかった。この女性は症状が軽かったので、服用をやめることで症状が治まったが、長い間飲んでいる薬だから大丈夫なのではなく、高齢者の場合はさまざまな薬物動態の変化があることを知ることが大切だ。医師は、臓器の働きを考えながら薬を調節することになる。高齢者慢性疾患の薬を使う場合は、通常の1/3や半分の量から始めて、効果と副作用を見ながら徐々に増やしていくことが大原則となる。

高齢者に多い多剤併用は、副作用の原因に

東大病院老年科で、服用している薬の数と副作用の相関関係を調べたところ、薬が多ければ多いほど副作用が多いことが判明した。また、外来の調査でも、ひとつの病気で平均1.3種類の薬を飲んでおり、加齢とともに服用する薬の数が増えていることがわかった。このことからも、多剤併用を考え治した方がよいと思われる。日本老年医学会では、6種類以上を多剤と考えることを提案している。

血圧やコレステロールなど病気の予防のために飲んでいる薬はセーブするなど、医師は優先順位をつけて6種類に収めるなどの工夫が必要だ。高齢者に特有な症状である記憶障害、食欲低下、排尿障害などは、血圧に作用する一部の薬や睡眠薬などが原因で起きることもあるので、年をとったら薬を減らすことも考えてほしい。

■重要な薬の管理。管理しやすい処方に変更することも

薬の管理は、高齢者にとって重要な事柄だ。記憶障害などで発見される認知症だが、ごく初期の段階で起きやすいのが薬の管理が怪しくなることだ。家族は、高齢者が薬の管理ができているかどうか注意して観察してほしい。

薬をきちんと飲むための工夫も大切だ。服用の回数を少なくすれば、管理がしやすくなる。今は2種類が1種類になっている合剤というのもある。製剤の進歩で、1日1回の服用で効く薬や、薬によっては服用の時間帯が特定されていないものもあり、介護する人が見守りやすい時間帯に飲む処方も可能なので、医師に相談してほしい。薬によっては、水が不要なものや貼り薬など種類があり、その人に合うものを選択することもできる。

・薬の処方を変えた事例
1)79歳の男性。ひとり暮らしだったが息子に呼び寄せられ、同居。同居2週間後にふらつきを訴えて受診。診察すると脈が遅く、血圧も低い。薬が効きすぎという印象があったので話を聞くと、ひとり暮らしの時は書いてある薬の半分しか飲んでいなかったが、同居後は息子の妻が薬を用意してくれるため、すべて飲んでいることがわかった。薬の量が倍になり、効きすぎていることが原因だったので、血圧の薬を中心に量を少し減らし、管理もしやすくした。

2)86歳の独居の女性。薬を14日分処方していたところ、10日目に来院して「薬がなくなったのでほしい」ということを繰り返していた。そこで、朝と夜に飲む薬を寝る前に飲むように処方したところ、不足することがなくなった。不足した理由や解消した理由は不明だが、結果として変更がうまくいった事例である。このような処方の変更や服用する時間の整理は、複数の科を受診しているケースでは難しい。そういう意味でも、かかりつけ医にすべての薬を処方してもらう一元管理が望ましい。

薬の管理で有効な方法として、医師が処方する時に指示して錠剤をまとめる「一包化」もあるが、これも一元管理が前提になる。家庭での薬の管理では、服薬カレンダーがおすすめだ。100円ショップで買えるし、手作りしてもいい。

また、お薬手帳は非常に大切なもの。東日本大震災では手帳が流されてしまい、飲んでいる薬がわからなくなった人はたくさんいた。医師は記録に基づいて薬を出すので、お薬手帳を防災袋に入れておくことをすすめたい。

最後に、薬の副作用を予防するための注意点をあげる。
・薬は、場合によっては害になることを知っておく
・お薬手帳で他の科の処方を正確に伝える。
・薬に不満がある場合は医師に伝える。こっそり飲まないのは厳禁。
・新聞などの薬の副作用情報に惑わされない。不安があれば、必ず医師に相談すること。

◎東京都健康長寿医療センター

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