東京都は、11月9日、東京都消費生活条例に基づき、東京都知事が東京都消費者被害救済委員会に、「高齢者向け賃貸住宅の退去に伴う返還金に係る紛争」の処理を付託したと発表した。内容は、高齢者専用賃貸住宅を約5ヶ月で退去した入居者が、礼金200万円が一切返金されなかったことや介護一時金の返金額をめぐり事業者との間で紛争となったというもの。
■紛争の概要:
申立人(一人暮らしの70歳代女性)は、2010年3月、自宅で転倒して頭などを強打し入院。約4ヶ月後退院することとなったが、一人暮らしは難しいため、介護サービス等を受けられる施設を探すこととした。退院日が迫るなか、申立人は、相手方が運営する高齢者専用賃貸住宅に空きがあることを知り、2010年7月、この住宅に入居することを決めた。
申立人は入居を急いでいたことなどから解約時の条件を十分理解しないまま契約し、礼金200万円、介護一時金400万円、月額利用料として家賃7万円、共益費3万5,000円、介護サービス料(利用実績に応じた額)等を支払うこととなった。
入居後、事業者のサービスに不満を持っていた申立人は、思いのほか順調に体調が回復したことから一人暮らしも可能であると判断し、同年12月に退去した。退去にあたり、入居時に支払った礼金200万円は返金されず、介護一時金は400万円のうち208万円が返金された。
申立人は、200万円の礼金はあまりに高額で一切返金されないことに納得ができず、また介護一時金についても、短期間で大半が償却されてしまうが、償却額に相応するようなサービスを受けた記憶はなかったため、返金額に納得できないと主張したが、相手方が契約条項を理由にこれに応じなかったため、紛争となった。
■主な付託理由:
次のことについて、委員会の見解を求め、紛争の公正かつ迅速な解決を図るとともに、今後の同種・類似被害の防止・救済に役立てるため付託する。
1)本件賃貸借契約の重要事項説明書には、「入居開始日を起算日として満7日以降の契約取消しに対して、礼金の返金は行われません。」と記載されている。200万円という礼金額は、家賃の約28ヶ月分にもあたる高額なものであるが、入居7日目以降の中途退去の場合に一切返金されないとする本規定は、消費者契約法に照らして消費者に一方的に不利益なものであり、無効といえるのではないか。
2)本件介護サービスに係る契約書には、介護一時金の償却額及び償却期間が規定されており、この規定によると、400万円のうち、7日間で192万円(介護一時金の48%)が償却され、1年間で全額が償却されることとなる。「一生涯サービスを受けられる」として長期にわたるサービス提供を前提にしながら、早期に介護一時金の大部分を償却してしまう本規定は、同様に消費者に一方的に不利益なものであり、無効といえるのではないか。
■東京都消費者被害救済委員会とは:
消費生活総合センターに寄せられた苦情・相談のうち、都民の消費生活に著しく影響を及ぼし又は及ぼすおそれのある紛争について、東京都消費生活条例に基づき設置された知事の附属機関である東京都消費者被害救済委員会が、「あっせん」や「調停」を行うことにより、公正かつ速やかな解決を図る。
◎東京都
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