高齢者のシングルライフへの関心が高まるきっかけとなった『おひとりさまの老後』の著者、上野千鶴子氏の新著、『ケアの社会学――当事者主権の福祉社会へ』が、太田出版から出版された。
社会の高齢化が進む中で、今後ますます重要性を増してくる「ケア」の問題は、これまで十分に冷静な議論がなされてきたとはいえない。介護労働者が不足し、そのニーズが増す一方で、彼らの労働環境は、現在も低水準が維持され続けている。
さらに、「ケア」は家族の心情や道徳意識に強く働きかける領域であるが故に、主婦などの無償の奉仕労働として扱われがちである。著者は、ケアは「愛の行為」ではなく「労働」ととらえるべきだと主張する。こうした問題の批判的検討に加えて、本書はこれまでもっぱら「ケアする側」の立場から語られてきたこの問題を「ケアされる側」の立場からとらえ直し、介護現場における「当事者主権」とは何かを明らかにする。
著者の代表作、『家父長制と資本制』が出版されてから21年。そこから切り開かれた家事労働論・再生産論をさらに先へと押し進めた、“上野社会学”の集大成ともいえる一冊だ。
■目次:
第一部 ケアの主題化
第1章 ケアとは何か
第2章 ケアとは何であるべきか
第3章 当事者とは誰か
第二部 「よいケア」とは何か
第4章 ケアに根拠はあるか
第5章 家族介護は「自然」か
第6章 ケアとはどんな労働か
第7章 ケアされるとはどんな経験か
第8章 「よいケア」とは何か
第三部 協セクターへの期待
第9章 誰が介護を担うのか
第10章 市民事業体と参加型福祉
第11章 生協福祉
第12章 グリーンコープの福祉ワーカーズ・コレクティブ
第13章 生協のジェンダー編成
第14章 協セクターにおける先進ケアの実践
第15章 官セクターの成功と挫折
第16章 協セクターの優位性
第四部 ケアの未来
第17章 ふたたびケア労働をめぐって
第18章 次世代福祉社会の構想
■著者:上野千鶴子
■仕様:A5判・504ページ
■発行:太田出版
■定価:2,993円
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