7月16日、17日に開催された「オヤノコト.エキスポ2011」では、暑い中、2万3,000人あまりの人が会場に詰め掛けた。展示ブースで紹介されている商品やサービスも人気だが、会場内のミニステージやセミナールームで開催された、“高齢初期の困りごと”をテーマにした15のセミナーは連日満員御礼の盛況を見せた。
高齢期の食事や住まい、親子のコミュニケーション、相続対策など多彩なセミナーの中から、今回はとりわけ熱心な聴講者の多かった、人間総合科学大学人間科学部健康栄養学科教授・熊谷修氏による講演「介護されたくないなら粗食はやめなさい」をレポートする。
熊谷氏は、栄養学・介護予防のスペシャリスト。高齢者の老化遅延に効果がある食生活を提唱し、シニア世代の健康管理にメタボ対策ばかりが言われる風潮に警鐘を鳴らしている。「介護されたくないなら粗食はやめなさい」という刺激的なタイトルは、熊谷氏のこれまでの研究成果を端的に表すものとなっている。
セミナーの冒頭では、知的能動性など健康で幸せな高齢期を送るために必要な能力や条件を示すことから始まり、老化の兆候や要介護のリスクは歩行速度の低下や体の筋力の衰えに現れることを、データを提示しながら説明。疾病対策に偏りがちの中高年の健康管理は、老化対策こそ標的にすべきであることを説いた。
続いて、研究で明らかになった、老化と体の栄養の関係を解説した。高齢期の栄養状態の指標となるのが、血中のたんぱく質に含まれる「血清アルブミン」で、血清アルブミン値が低いと歩行速度の低下する程度が大きくなることを説明。
「人間は老化が進むと骨格と筋肉が虚弱になり、体の中のたんぱく質栄養が低下するシニア特有の“栄養失調”に陥るので、年齢を重ねるほど十分な栄養、とりわけ良質のたんぱく質を摂取する必要がある」と語った。
ここで言う「良質のたんぱく質」とは、肉や魚を指す。だからこそ、今回の講演タイトルにあるように、高齢者ほど実は肉類を積極的に食べたほうがよい、ということになる。
血清アルブミン値は人間ドックの血液検査で測定できるので、高齢者はもちろん、アルブミンが減少する閉経後の女性も定期的に人間ドックで検査をするのが望ましいと述べた。
最後に、老化を防ぐための食生活のポイントを具体的に説明。バランスのいい食事の目安となる10品目の「食品摂取多様性スコア」の活用を勧めたほか、「老化遅延のための食生活」リストを取り上げた。
【老化遅延のための食生活】
・欠食はしない
・動物性たんぱく質を十分に摂る
・油を使った料理を食べる
・牛乳を毎日200ml飲む
・調味料を上手に使い、おいしく食べる
・食材の調理法や保存法を習熟する
・食材を自分で購入し、食事を作る
・会食の機会をもつ
・余暇を取り入れた運動習慣を身につける
会場は、高齢の親をもつ世代の聴衆が多く、メモを取るなどしながら熱心に耳を傾ける姿があちこちで見られた。「アルブミン値が少ない人は、60・70代だけではなく、50代でも増えていることが国民健康・栄養調査で明らかになっている」との熊谷氏の言葉に、親世代だけではなく、自分のこととして関心をもっている様子も感じられた。