アルツハイマー病の原因物質と考えられている「アミロイドペプチド(Aβ)」のうち、これまで見過ごされていた亜種である「Aβ43」が、アルツハイマー病を強力に促進する物質であることが明らかになった。
これは、独立行政法人理化学研究所が発表したもの。
老人性認知症のなかでも患者が最も多い「アルツハイマー病」は、脳内に老人班(アミロイド班)と呼ばれる過剰なタンパク質の「シミ」が沈着することが、病理学的な特徴の1つ。この「シミ」の主な成分がAβであることがわかっており、Aβの過剰な蓄積がアルツハイマー病を引き起こす原因と考えられている。そのため、アルツハイマー病の治療には、Aβを脳内から取り除くことが重要と考えられてきた。
しかし、このAβには、アミノ酸の長さが異なるAβ40とAβ42の存在が古くから知られていて、これまではこの2種類を中心に研究が進められていたが、Aβ40、Aβ42を標的とした治療では、アルツハイマー病の進行を阻止することはできずにいた。そして2005年ごろからAβ40、Aβ42以外にも、アミノ酸の長さが異なるAβ亜種が存在することが徐々に知られるようになった。
今回の研究では、非遺伝性のアルツハイマー病患者4人を対象に、Aβ種の存在率を解析したところ、Aβ40よりも高頻度でAβ43が存在していることが判明。
また、野生型マウスと、アルツハイマー病モデルマウスで、それぞれの脳内のAβ43濃度を調べたところ、いずれのマウスも加齢に伴って脳内のAβ43濃度が増加していた。アルツハイマー病モデルマウスでは、脳内にアミロイド班が出始める前から増加し始めていたことから、Aβ43がアミロイド班を形成する引き金になっている可能性が示唆された。
さらに、家族性アルツハイマー病の原因遺伝子の1つを解析した結果、アルツハイマー病を早期に発症する家系の変異ほど、Aβ43の産生能が高く、Aβ43の存在量や存在比が高いほど、アルツハイマー病を早期に発症していることもわかった。
このほか、Aβ43は、Aβ42よりも強力な神経毒性や凝集性を発揮することも判明している。
今回の研究結果から、Aβ43がアルツハイマー病の発症にかかわる重要な原因物質であると考えられ、今後、新たな治療法や診断法の開発が期待される。
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